今回登場する射場さんをひとことで表現すると
「へんな人」「かわった人」です。
常識に絡め取られている人には確かにそう見えます。
でも、さまざまな立場や考え方を超えて
自由な視点でものを見て行動できれば
これから違う生き方ができるんじゃないか…。
そう思わせる「へんな人」なんです。
このお話「なんだか、自分は常識が染みついちゃってるなぁ…。」
と思っている人には、結構効くクスリかもしれません…。
名前 | 射場 守夫 (いば もりお) |
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職業 | 弁護士 |
趣味 | 遺跡めぐり/ ドライブ |
イ:弁護士に合格して、最初に勤務したのは米子市(鳥取県)ですか?
射:そうです。
イ:勤務地はどうやって選ぶものなんですか?
射:当時の弁護士事務所への就職というのは、働き口がたくさんありましたから、一生懸命に就職活動しなくても希望する地域で働けましたね。ただ、都会で就職を考える場合は、売り込まないと就職はできなかったと思います。
イ:長く住んでいた岡山県で働くという選択はなかったんですか?
射:岡山に居続けても良かったんですけど、彼女(奥様:射場かよ子弁護士)が、私より3年早く弁護士になって出雲市で働き始めたので、家族で一緒に行くことにしました。
イ:出雲でもタクシーの運転手をされていたんですか?
射:出雲ではやっていません。彼女が就職した翌年(2003年)に僕が合格して、鳥取修習のあと米子で就職しました。
イ:ということは、その時点で射場さんは米子、その他の家族は出雲という生活になったということですか?
射:そうです。普通だったら同じ事務所に入って、仕事を一緒にやるということになると思いますけど、いきなり二人も新人を抱えられないということで、私は入れなかったんです。もし、同じ地域の他の事務所で働くことになると、事件が起こった時に彼女と僕が対立当事者になってしまう可能性があります。だから隣県の米子ということになったわけです。
イ:射場さんは米子に何年いらっしゃったんですか?
射:2005年10月から2012年の2月までですから、約6年半ですね。そして、3月に奈良県大和高田市で事務所を開業しました。
イ:奈良で開業しようと思ったのはなぜですか?
射:遺跡を見ることが好きなので、その時間を少しでも多く作りたいからです。米子から奈良の往復だと時間がかかりますから(笑)。
イ:遺跡が好きだから?
射:好きだから(笑)。
イ:遺跡の近くにいたいから?
射:いつでも行けるようにしておきたいから(笑)。
イ:「遺跡をたくさん見たいから奈良に事務所を開く」…。それは、かなり以前から考えていたことなんですか?
射:ええ。昔はそれこそ睡眠時間を削って朝から晩まで働いていましたから、遊びに行くことができなかったんです。少しは余暇も楽しめるようになりましたから、遺跡を見ることに自分の時間を使いたいと思ったんです。それが夢でした。
イ:目の前に遺跡がたくさんあるわけですからね(笑)。
射:そうですね。でも、こちらでも徐々に仕事が忙しくなってきて、見る時間がなかなか作れない。それが非常にもどかしいんです(笑)。うれしくもあり、悲しくもありという感じですね。
イ:先生の「遺跡好き弁護士の一(はじめ)法律事務所」のブログを読むと、「石が綺麗に積み上げられていて美しい…。」とか「内部の曲線も精緻でうっとり…。」とか、快感フレーズがたくさん出てきますね(笑)。
射:出てきます(笑)。
イ:遺跡を実際に見ると、やはり気持ちがいいものなんですか?
射:実際に見て、「何年前にできたかのか?」というのと、当時の技術レベルで「なぜそれをしなければいけなかったのか?」ということに想いをはせるとワクワクしますね。
イ:「ワクワク」ですか…。
射:たとえば飛鳥の方に「岩屋山古墳」という遺跡があるんですけど。その古墳は、ほとんど隙間がないぐらいに石が「ピチ―ッ」とはまっているんですよ! マチュピチュの遺跡にもこんな感じじゃないかと思いますよ…行ったことないですけど…(笑)。
イ:「カミソリも入らないような石組み」と言われていますよね。
射:そう、もうそんな感じです! それを作ったのが7世紀だと言われていますけど、そんな時代に、まさに石切ノコで正確に切ったようなものができているんですよ。しかもそれから1300年以上経っていてもなおきちんと組まれているんです。だから、当時はおそらくもっと綺麗だったでしょうね…。そういうところまで想像していくと、ものすごく不思議なんですよ。「不思議なもの」っていうのは、やはり面白いですよ。
イ:先生が興味を持っている時代は、そのあたりが中心になるんですか?
射:ええ。関心があるのは、やはり弥生時代・古墳時代のものが多いですね。それ以外はマニアというほどではないですね。
イ:その時代については、昔から関心があったんですか?
射:小学校ぐらいから関心がありましたね。昔の教科書の歴史年表では、「大和時代」なんて書いてあったんですが、実際に何があったのかというのは、文献がなくてわからない時代なんです。その頃に「古墳文化」というのが出てきているわけですが、それが特異な文化なんですよ。
イ:特異な文化?
射:たとえば、仏教などは今でも脈々と続いていますから、教義があって「仏像がありますよ」というと納得はできるんですけど、古墳を作っていた時代が過去にあって、しかもその時代を現代人とつながりがある人たちが作ったと考えると、何かすごく不思議な気がするんです。「何を考えてそういう不思議な造形のものを作ったのか?」ということに想いをはせると、すごく興奮しますね。
イ:そういうものは、以前住んでいた出雲にも米子にもありますよね?
射:あります。でも、近畿地方、特に奈良は質量ともに群を抜いていますからね。
イ:奈良県の中でも、大和高田市に事務所を開かれたというのは、何か理由があるんですか?
射:仮に古墳時代から飛鳥時代にかけてを日本の始まった時期だと考えると、その頃の中心地が奈良盆地で、古墳時代の始まりが奈良盆地の南部です。奈良盆地の南部で裁判所を探すと、大和高田市にありますから、そこに事務所を作ろうと思ったわけです。
イ:まず「遺跡ありき」で開業の場所を決めたというわけですか…(笑)?
射:そうです(笑)。
イ:現在は、仕事の合間を見つけて、時間があったら遺跡を見に行くという生活なんですか?
射:そうですね。時間があれば見に行きますね。
イ:見尽くして、二、三回同じ遺跡を見に行くということもあるんですか?
射:「見尽くす」というのは考えにくいですね。
イ:そんなにたくさんあるんですか。
射:ありますね。おそらく今のままでは10年ぐらいかけても無理ですね。…弁護士を辞めたらできるかもしれないですけど…(笑)。
イ:弁護士を辞める…。何か本気で考えているような気がしますけど…遺跡のために(笑)。
射:うまく先立つものの予測が立ったら、事務所をたたんでやりましょうかね(笑)。
イ:まさしくライフワークですね…。
射:そうですね。まぁ、そうは言っても、ここで従業員さんを雇用しているので、辞めたくなったから「辞めます」というわけにはいきませんから…。まず新しい弁護士を入れて、その人に業務を託して「私は辞めます」みたいなことになるかもしれませんね(笑)。
イ:やはり少しは考えているじゃないですか(笑)。
イ:弁護士事務所というのは、いきなり違う土地に行って、すぐに定着するものなんですか?
射:僕が弁護士になった時代というのは、腕があれば需要があってやっていける仕事だったんです。それから経験を積んできましたから、違う場所でも大丈夫です。
イ:弁護士の仕事は、基本的に「依頼がなければ収入がない」というものですよね?
射:ええ。その点は零細企業の社長と同じですよ(笑)。一生のうちで三回も四回も法律事務所へ相談に行く人は、ほとんどいないわけですから、職種として希少だから成り立っているという感じですね。
イ:仕事は面白いですか?
射:弁護士になる前に想像していたより面白いですね。仕事をやっていくと、本当に世の中にはいろんな人がいると改めて感じます。人間のバリエーションの多さ、それが興味深いです。
イ:それは、人に対して感じることですか?
射:人とその人が巻き起こすことですね。たとえば、「面白い・楽しい」というものだけじゃなく、「面白い・つらい」とか「面白い・困った」とか、いろんなバリエーションがあるわけです。もちろん、仕事ですから大変なこともたくさんありますけど、そういうことをすべて含めた興味深さですね。
イ:興味が尽きないという感じでしょうか。
射:そうですね。でも、弁護士がすることの限界を感じることもありますよ。
イ:たとえば、どういうところに限界を感じるんですか?
射:当然のことですが、弁護士は法律の範囲内でしか対応きませんし、範囲内であっても法律の限界を感じることがあります。法律はあるけれども実現するシステムが成り立っていないとか…。そういう時には、やはり行きづまりを感じることがありますね。これは、なかなか難しい部分です。法律の範囲内というのは…やはり壁ですね。
イ:法律や制度というのは決まり事ですから、これは大きな壁ですね。射場さんは、この壁にどう対応していくんですか?
射:「子供が全員自立したらどうしようかな…」とか「仕事やめようかな…」とか…(笑)。
イ:今までのお話を伺うと、それも冗談ではないような気もしますけど…(笑)。確かに、仕事は「生活の基盤」という側面もありますからね。
射:まだ親の手を離れていない子供がいますから、基盤となるものは必要だと思いますね。…まぁ、私の収入が途絶えてそれがなくなっても、どうにかなるとは思いますけど…。死ぬわけじゃないですからね…。
イ:射場さんなら、どうにかすると思いますよ(笑)
(取材/2013年4月3日・4月17日)
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