射場守夫

今回登場する射場さんをひとことで表現すると
「へんな人」「かわった人」です。
常識に絡め取られている人には確かにそう見えます。
でも、さまざまな立場や考え方を超えて
自由な視点でものを見て行動できれば
これから違う生き方ができるんじゃないか…。
そう思わせる「へんな人」なんです。
このお話「なんだか、自分は常識が染みついちゃってるなぁ…。」
と思っている人には、結構効くクスリかもしれません…。

人物図鑑インデックス

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名前 射場 守夫 (いば もりお)
職業 弁護士
趣味 遺跡めぐり/ ドライブ
 
 

第4回 自由になる発想

イ:私を含めて、ほとんどの人は、射場さんのように強い気持ちを持って「やりたい」と思えることはないんじゃないかと思いますが…。

射:「死んでもしたいこと」というものは僕にもありません(笑)。でも、それは作ればいいんですよ。「何かちょっとやりたいな」と思うこととか、「興味があること」の中からどれか一つを選ぶという感じだと思います。そして、そのために少しずつ生活を合理化していくということです。

イ:「合理化」ですか?

射:僕も、「遺跡を見る生活がしたいな」と思って、それに対する障害がなくなった時点で生活を変えたということに過ぎないんですよ。

イ:それは、「仕事も合理化のための手段」だということですか?

射:そこまでして「やりたいな」と思っているわけではなくて、「やりたいな。障害がなければやる」という程度のものです。つまり、あえてそれを踏み倒してやっていくというのではなく、できる環境を徐々に整えていくということです。

イ:「強引に突き進んでいく」ということではないんですね。

射:そうです。だから、「心の底からやりたい」というものがなければ、人生何もできないかというとそれは違うと思います。

イ:射場さんが弁護士を目指したのも、「特に理由はない」ということでしたからね(笑)。

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射:よく「タクシーの運転手をしていて、何で弁護士になりたいと思ったんですか?」と聞かれるんですけど、「思いつきです」と答えると、「そんな軽い動機で、よく弁護士になれましたね」と言われるんですよ。つまり、質問した方たちは「『死ぬほど』の思いがないとなれない」と思っているんですよ。それは違うと。そこまで思わないと努力ができないということがおかしいんですよ。

イ:それは、漫画「ドラゴンボール」で、主人公がサイヤ人から超サイヤ人になる時に、最初は凄く気合を入れないとなれないのに、訓練をして平常心で超サイヤ人になれるようになる場面と似ていますね。

射:そういう場面がありましたね。

イ:弁護士を目指す姿勢として、「普段からマックスが出せるようにならなきゃダメだ」という意味では似てるんじゃないかと思いますけど…。

射:それ重要ですね(笑)。凄く意気込まなきゃできないようでは駄目ですよ。やりたいことのほとんどは、ある程度の力があればできることばかりだと思います。でも、いざやるとなると心の壁みたいなのがあるんでしょうね。そこをきちんと客観的に見るということは非常に大切ですよ。

イ:でも、「ちょっとだけやりたいこと」というのは軽い気持ちですから、実際の行動は何もしないで終わってしまうということになりませんか? そういう人でも、やりたいことができてしまうということですか?

射:やる気がゼロだったら何をやってもダメでしょうけど(笑)、やる気が少しでもあれば、やっているうちに目標が見えてくることによって、良い循環が起こるということもあるわけですよ。

イ:やる気は少しでもいいんですか?

射:大きさにこだわる必要はないと思います。それよりも、「やりたいな」と決めたら、それを行動に移すためのプランをしっかりと練ることができるかどうか。それが重要なんです。プランがあるから実行に移せるんですよ。

イ:「少しのやる気」と「プランを練り込む」ということですか…。

射:それがなければ、いくら心の中で強い希望を持っていてもダメだと思いますね。

イ:何回受験しても落ち続ける人や、やりたいことができない人というのは、「思いがあってもプランがしっかり練られていない」ということですか?

射:そうです。たとえば司法試験に合格して弁護士や裁判官を目指す人は、おそらく凄くなりたいんだと思います。でも不合格になる人は、実行に移すためのプランが上手くいってないんじゃないかと思いますね。不合格で泣くほど悔しい…。でも、その翌日から勉強している人はほとんどいないんじゃないでしょうか。

イ:不合格のショックがありますからね。

射:それは、凄く高まってる気持ちがあっても、自分の能力まで見据えた上での実行プランを上手く組めないことが原因だと思います。

イ:できない原因は、思いの強さよりも実行プランにあるというわけですか。

射:そう思いますね。だから「できない人は思いが足りなかったんだ」というように、簡単には言えないんですよ。思いがあっても、まず実行に対するプランを考えて、その上でプランを着実に実行していく必要があるわけです。

イ:たとえば、「今日勉強したくないなぁ…」と思った時にも、「プランを実行しよう!」と着実に実行していく。それは思いの強さではなく、頭の切り替えということですか…。

射:自問自答して、そこから進めていくというような、心と行動のつなぎが上手くできなければ、いくら思いが強くてもやっぱり駄目なんでしょうね…。逆に言うと、それをつなげれば、そんなに強い思い入れがなくてもそこそこはできるんじゃないかと思いますね。

イ:その「つなぎ」というのは、第三者が手助けしたら火が付く、あるいはクリアになるということもあり得ますか?

射:ええ、ありますね。手助けする場合もあるでしょうし、特にアドバイスをしなくても、いるだけで手助けになる場合もあるでしょうね…。人がいるだけで自覚が呼びさまされるということはありますよね。

イ:なるほど。射場さんがなぜ思いつきで弁護士になれたのか、その一端がわかってきました。

射:そうですか(笑)。

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イ:でも、自分に見えている障害が「本当はないんじゃないか?」と考えて行動できる人は少ないと思いますよ。

射:仮にそれを障害だと感じても、「それを倒さなければ前に行けないんだ」というように思うのはちょっと違うんじゃないかと思いますね。障害を大きく見過ぎているんです。「ある」とか「大きい」と考える必要はないんですよ。そう考えると不自由になりますから…。

イ:それは、「障害を見極める」ということですか?

射:そうです。まず、よく見て障害の大きさを測らないと、どの程度の障害かもわからないし、クリアできるものなのかもわからないわけです。見極めると、そのほとんどはクリアできるものだと思いますよ。

イ:そういう考えは、いつ頃から持っていたんですか?

射:自分自身が変わったと自覚したのは20代前半ですね。

イ:それは、若い頃のフリーターの経験によるものなんですか?

射:いや、仕事とは全然関係のないところです。面白い人と出会いがあったんですよ。その人を語るのは難しいですけど…。

イ:難しい?

射:定義付けが難しいですね。ただ言えるのは、その人から自由さを学びましたよ。

イ:「自由さ」ですか…?

射:ええ。たとえば物の見え方というのは、同じものを見ていても、毎日真面目に会社に行ってる人と、その会社を経営してる社長と、社会からちょっと逸脱しちゃった様な人っていうのは、同じ風景でも見え方がそれぞれまったく違うんですよ。

イ:置かれている立場や考えなどが違いますからね。

射:でも、もしそこを自由に行き来できたら、それはものすごく自由だと思いませんか?

イ:柔軟な視点が持てたら、すごく自由だとは思います。

射:そうでしょ。

イ:発想が自由であれば、「死ぬほど」の思いがなくても行動できるということですか?

射:そうです。発想が不自由なために不幸になっている人は非常に多いと思います。だから、「存在しない障害」を「あるもの」と思い込んで人生をあきらめる人とか…。そういう人がほとんどかもしれませんね。

イ:多くの人が不幸であるということですか?

射:「自由な発想ができない」ということは、それだけで不幸せなんじゃないでしょうか。逆に言うと、「存在するかどうかわからない障害」というものをいろいろ検証して、それを確認した上で行動していくと、幸せになる可能性が出てくると思いますね。もちろん、それで必ず幸せになるとは言えませんけど…。

イ:まず「考え方を自由にする」ということですね。

射:ええ。常識と言われているものとか、様々なしがらみから自由じゃないというのは不自由だし幸せじゃないと思います。そういう人たちの中で、たとえば社会的地位の面では成功している人がいたとしても、自分の人生の評価としては成功とは言えないと思います。

イ:たぶん、ほとんどの人は何らかの部分が不自由だし不幸せなんでしょうね。でも、考え方を自由にする意識と行動が大切だというわけですね。

射:そうです。

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イ:仕事には、たとえば「誰でも簡単にできる仕事」「難しい試験に合格しないとなれない仕事」「憧れられる仕事」「嫌がられる仕事」その他さまざまあると思うんですが、射場さんがフリーターから弁護士になると、「フリーターを見下してるんでしょ!」と感じる人もいるんじゃないでしょうか?

射:それは正しいんじゃないですかね(笑)。僕は下に見ているつもりは全然ないんですけど、そう見えてしまう人もいると思いますから。

イ:仕事を上下として捉えてしまうと、どうしても「見下す」「見上げる」という考えになる人がいるでしょうね。

射:上下という段階で、すでに間違っているんですけど、きっと世の中には、マイナスイメージを持たれる仕事というものがあるんでしょうね。私は、以前の自分が「資格がないという立場から、ある人たちを嘲笑っていた」と話しましたが(人物図鑑 第1回参照)、ない立場からある立場になったというだけで「負けだ」という考えを持つ人がいてもおかしくないと思いますよ。それはそんなに間違っていません。正しいですよ(笑)。

(取材/2013年4月3日・4月17日)

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