野嶋功

野嶋さんは、会社を経営する傍ら
トライアスロンやライフセービングクラブなどの
要職に就いて活動をしている方です。
お金じゃない「たからもの」をたくさん持っているんですね。
はやりの「ワークライフバランス」じゃなく
「ワーク<ライフバランス」。
そのヒントが散りばめられたお話がはじまります…。

人物図鑑インデックス

野嶋功_index
名前 野嶋 功
職業 不詳
 
 

第3回 しんどいけど、やってみて初めてわかること

イ:野嶋さんは、現在トライアスロン、ライフセービングクラブ、身障者のトライアスロンであるアクアスロンを支援していますよね。他にも何かありますか?

野:今、主にやっているのはそれぐらいですね。

イ:トライアスロンはいつからかかわり始めたんですか?

野:自分の所属していた経済団体の会員が、選手で参加するというので、それを応援したのが最初ですね。その後ボランティアをやって気づいたのは、トライアスロンってマッチョな人とか、見るからにスポーツマンという人がやってると思っていたのに、若くて細い体つきの女の子や、お爺さんみたいな人が参加しているわけですよ。

イ:確かに老若男女さまざまな選手がいますよね。

野:なんかこう…苦行みたいな表情で走っている人がいて、最初にそれを見て「何が楽しいんだ?」と思いました。見る側にとっては確かに感動しますけど、「何が楽しいのか?」その本質は選手の側じゃないとわからないと思ったわけです。「見てるだけじゃわからん!」ということです。

イ:高校を卒業してから選手で参加されるまで、本格的な運動は何もやっていないのに、かなり思い切った気まぐれですね(笑)。

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野:7月にトライアスロンのボランティアをやって、「来年は選手として参加します!」と友人に宣言した時は、運動もしてなかったし、タバコも毎日2箱吸っていたから、相当な不摂生ですよ。

イ:普通の不摂生な20代の若者ですね(笑)。

野:それで翌8月からトレーニングを始めました。当時、早朝野球チームに入っていて、まぁ、趣味のお遊びみたいなものですが、試合前に河川敷の外周を走ったら、その途中で吐いちゃった。1周もできない。

イ:そりゃ普通じゃなくて、かなり重症ですね。

野:「これはまずい」と思って、本格的にトレーニングを開始するんですけど、息が切れて400mが走れない。でも、宣言してるからやめるのはカッコ悪い。なんとかトレーニングを続けて、初めて10㎞走れた時は本当に嬉しかった。

イ:なんだか、選手を目指す人の話じゃなくて、リハビリ物語を聞いているような気が…(笑)。

野:でも、トラックを25周走れた時は本当に嬉しくて。家に帰って嫁さんに「10㎞走ったぞ!」って話したら、「興奮するのはまだ早い!」って冷静に言われました(笑)。

イ:まだフルマラソンの1/4も到達していませんから「目指すところは違うでしょ!」というわけですね。でもそこでスイッチが切り替わったんじゃないですか?

野:ホントに嬉しかった! でも、トライアスロンって水泳にバイク(自転車)にフルマラソンをやるから、参加するための敷居がすごく高いように見えますけど、トレーニングをやれば誰だって参加できますよ。僕だってできたもん。

イ:そうですか…? 野嶋さんは、それでも基礎体力があったからできたと思うんですけど…。

野:いや、やっぱり何でも一緒ですよ。「やるぞ!」と決めて、目標を立ててそれに向かってコツコツ積み上げていく。そうすれば、確実に目標に近づいていきますよ。

イ:実際に選手として参加されて、見えた風景は違いましたか?

野:トライアスロンって結構派手なレースの世界だと思っていたんですけど、実際にやってみるとものすごく地味。こんなに地味なスポーツはないと思いましたね。スポットライトを浴びるのはたった1日なのに、それまでのプロセスっていうのが結構大変なんです。

イ:具体的には、どういうところが大変なんですか?

野:選手の多くは、仕事や家庭があるから、限られた時間をやりくりしながらトレーニングをして大会に参加します。そのプロセスは本当に地味なんですけど、それを積み重ねることができる人じゃないとトライアスロンはできない。もちろんいろんな選手がいますが、それができる人は仕事もできると思います。

イ:なんとなくわかります。トライアスロンをやる上ではバランスが大切で、それもある意味ではトレーニングのひとつであるということですね。

野:だから、のめり込み過ぎてバランスを崩すと、会社を辞めるとか家庭を壊すという可能性がありますね。これはトライアスロンに限ったことではないですけど、バランスは非常に大切な要素だと思います。

イ:「たとえバランスを崩しても、やりたいことをあくまでやる」という行動もいいんじゃないかと思いますけど…。

野:それで良い方向に向かえばいいですよ。たとえば、トレーニングのために会社を辞めても、自分の基盤を大きく狂わすことなく環境を整えた人もいます。でも、物事の優先順位が全く変わってしまったために、大切なものを失った人もいる。それはいいことじゃないと思います。最初に考えないといけないことは、バランスを取るために、最大限の努力や工夫をすべきだということです。そういうやりくりも重要なトレーニングだと思いますね。

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イ:野嶋さんは、現在、皆生トライアスロンを裏方で支える立場ですが、選手としては何年やられたんですか?

野:13年連続出場しました。その前に1年吐きながらトレーニングをしていたわけだからアスリートとしては14年(笑)。裏方に回って出場しなくなって13年ですね。

イ:折り返し地点にきましたね。選手としての参加は、もう考えていないんですか?

野:「出なきゃいけない」って、すごく思いますよ。だって、キャリアが逆転するっていうのは悲しいことじゃないですか。

イ:それはすごくわかります。

野:なんかこう、残念な気がするんですよ。だけど、大会を続けていくためには、運営も非常に重要ですから…。

イ:運営面で重要なのは、具体的にどういう点ですか?

野:安全に大会を運営していくことや財務面は、どの大会も抱えている問題だと思いますけど、選手の教育や啓蒙も重要だと思っています。

イ:教育や啓蒙というのはどういうことですか?

野:マナーですね。今はかなり改善されていますけど、以前はボランティアの人たち対して暴言を吐いたり、ゴミを路上に平気で捨てたりとか。傍若無人な振る舞いをする選手が少なくなかったんですよ。

イ:それは選手に「選ばれたアスリート」という意識があるからなんですか?

野:そういう点もあるかもしれません。県外ではそれが原因で地元の協力がもらえなくなって、中止になった大会もあります。皆生大会は、マナーの向上ということをずっと言い続けた結果、選手の中では非常にマナーに厳しい大会であると言われています。

イ:それは、『早いだけじゃなく、素晴らしい人間にならないと、スポーツをやっている意味がない』という南部忠平さんの精神につながるものですね。

野:そうです。その他に、海外からの選手の参加も引き続きやっていくなど、大会を支える側として、やらなきゃいけないことはたくさんありますね。

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イ:選手として参加されなくなったきっかけは、何だったんですか?

野:一番大きかったのは、2000年のシドニーオリンピックです。その時、トライアスロンが初めてのオリンピックの正式種目になって、しかも地元出身の小原工選手が日本代表として出場する。また、皆生大会も20回目だったんですよ。そういう節目に、小原選手を通じてトライアスロンをもっと広く知ってもらいたかったんです。

イ:どういう点を知ってもらいたかったんですか?

野:一番強く伝えたかったのは、小原選手の努力です。みんな「よく頑張りました」とか言うけれども、オリンピックが終わってからも彼の活動や功績を残していきたかった。彼の頑張りに対して、僕ら応援する人たちが報いてやれるっていうのは、それしかないないと思いましたね。

イ:具体的には、どのようなことをされたんですか?

野:大キャンペーンをやりました。県内の小学生に「小原工選手にメッセージを」というチラシを2万枚作って各学校に配布したり、懸垂幕を主要な建物に張ったり、巡回の写真展も開催しました。もちろん寄付活動もしましたよ。

イ:どれぐらいの人達が寄付をされたんですか?

野:7,600人の方から寄付をいただきました。60万ほどの人口の中の7,600人だから、かなりの数ですよ。

イ:金額や人数とともに、支えた方々の思いのエネルギーもすごいですね。

野:小原選手本人も驚いていました。寄付金を渡すと「え!こんなのあるんですか」って。「あたり前だよ。お前頑張ったんだもん」と皆さんの思いを伝えておきました。

イ:それで、その年に野嶋さんはトライアスロンに出場したんですか?

野:出ました。練習も全然してなかったのに…。ゴールには辿り着きましたけど、ホントに死ぬかと思いました。やっぱり、練習ができなかったら出場するべきじゃないですね(笑)。

イ:教訓は残りましたね(笑)。その後大会運営に本格的に携わるようになって、現在に至るというわけですね。

野:選手時代には、アドバイザリースタッフという肩書で、運営をサポートしながら、選手の視点からの情報を引っ張り上げる窓口みたいな事からかかわり始めて、今では引くに引けない立場になってしまいました(笑)。

イ:また選手に戻る気持ちはあるんですか?

野:あるある、大あり!

イ:期待しています!

(2013年1月25日 取材)

人物図鑑の野嶋さんの画像は、サングラスをかけているものがありますが、目を保護するためのもので、カッコつけて女性にモテるためではないかもしれません。

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