今回登場する大下志穂さんは、
多くの作品を生み出しているアーティストなんですが、
最初からそれを目指していたわけじゃないんですね。
いろいろなことを点と点を結ぶように経験しながら今に至るまでのこととか、
これからのことついての考えがとても面白い。
そういうお話を、みなさんにおすそわけしたいと思います。
名前 | 大下 志穂 |
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職業 | アーティスト |
イ:何で「CGアニメーション」だったんですか?
大:ものづくりの選択肢がいろいろあったんですが、その当時、ピクサーの「ファインディングニモ」に衝撃をうけて、「これからはCGアニメーションだ!」と感じました。英語ができて、CGアニメーションを作る技術があれば「世界中カバン一つでどこへでも行ける」って思っていましたね。
イ:普通の人は、そんな考えしませんよ(笑)。「すごいな。クオリティが高いな。リアリティがあるな」って思うぐらいですよ。
大:いや。私はその時「それを作る一員になれたらいいな!」って思ったんですよ。「それって一生続けられるすっごく楽しい仕事だろうなって」って。
イ:動機としては、子供が「ケーキ屋さんになりたい」っていうのと近いですね。30歳近くでそういう感覚になるんですね。
大:そうそう。たとえば「一生会社員であり続ける」というようなことは、自分には考えられないんですね。
イ:会社員を経験された上で、そう感じるわけですね。
大:基本的に、「会社員を経験する」というスタンスでした。もちろん仕事はやれることは全力で一生懸命にやっていましたよ。会社に恩返しできることはしてきたと思いますし…。でも、あくまで会社員としての仕事は、期間限定だと思ってやっていましたね。
イ:割りきっていますね。
大:会社員の仕事は、基本的に修行だと思っていたんですよ。
イ:修行?
大:「押さえつけられている」って思っちゃうんですよ。仕事内容も時間も休みも全部決められてしまって…。
イ:「それが会社員なんだよ!」という声が、どこかから聞こえてきそうですけど…。
大:自分には向かないと。私は「自分が楽しく生きられる。やりがいを持てる仕事をしたい」と思ったんですね。それで「CGならまだこれからだし、この年齢でも大丈夫かな」って考えたわけです。たとえば、Webデザインとかデザイナーは、その頃でも溢れるほどいたけれども、CGアニメーターはまだ人数が少ないんじゃないかって。
イ:学ぶにあたっては、それなりの「読み」があったんですね。
大:何となく。ぼんやりしたものですけど。
イ:今までの話を伺って、波乱の展開は、自分を信じて行動した結果だと思う反面、転々とした経歴では説得力がなくて、「大丈夫かよ!」とも思わせますね。
大:そうでしょうね。自分の中では波乱でもなんでもなく、必然なんですが、親だったら心配だろうなって(笑)。
イ:心配になりますし、「理想の仕事なんてあるわけないだろ!」って言ってしまった方が簡単ですからね。
カナダは、行ってみてどうでしたか?
大:ライフスタイルが、日本とかアジアの時間に追われたセコセコした感じと全然違う。人生を謳歌していることに衝撃を受けましたね。
「こんな生き方もあるんだ!」って思いました。仕事が中心ではなく、「生きることを楽しむ人生があるんだ」っていうことを身をもって体験しました。
イ:学ぶことについてはどうですか?
大:アニメーションに関して言えば、CGアニメーターっていう仕事は技術職で、「専門学校に行って技術を勉強すればある程度はできるようになる、誰でもなれる」って思っていたんですけど、違いましたね。
イ:どういう点が違うんですか?
大:北米のアニメーションは、ちょっとアート寄りで、ディズニーのアニメもアートとして捉えられていますね。より感性を要求される分野だっていうのは、学校に入ってみて初めてわかったんです。
イ:それはちょっと予想外の展開ですね。
大:それが、意外なことに「そんな能力が自分にあったんだ!」っていうくらい先生にも評価してもらって、好成績を残したんですよ。
イ:ハッピーな意味で予想外だったんですね。
大:本当に好きなものを描いたり、好きなものを作れる状況だったので、すごく楽しくなりました。自分がオープンになったとも思いましたね。
イ:オープンな感じ?
大:たとえば、絵を描くことって、日本ではちょっと上手いからって普通じゃないですか。せいぜい「上手いね」と言われるくらい。社会もあまり認めない環境では、「アーティストになりたい!」っていう人は少ないですよね。
イ:確かに。私は日本しか知らないですけど、アーティスト志向というより、趣味の範囲内という人が多いかもしれませんね。
大:だけど、北米はアーティストに対してちゃんとリスペクトがある。自己表現する人に対しての社会的な評価が高いんですね。認めてくれるんですよ、普通に。だから「自分もできるんだな」って自然に思わせてもらえたっていうか、「できる!って言っていいんだ」みたいな、表現に対する開放感があるわけです。
イ:創作する上では、とてもいい環境だったんですね。でも、「次どうしようか」ってことも考えなければいけませんよね。
大:「そのままいたいな」って思いましたね。アメリカかカナダのアニメのスタジオに入りたいと思ってたんですけど、ビザの問題や業界の求人が少ないということもあり、厳しかったですね。それでも就職活動していて、当初は日本に帰るっていう考えが全然なかったんですけど、次第に日本に目が向きだしたんですね。ネットで日本の会社も調べてみようとか…。
イ:調べてどうでしたか?
大:あるサイトで、作成中のアニメーションの予告編みたいなものがアップされていて、それを見て「ここだ!このアニメーションを作りたい!」って思いました。カナダからその会社に履歴書を送って、一時帰国して面接受けたところめでたく内定もらえて。
イ:それで帰国したわけですね。
大:そうです。
(取材/2013年9月18日)
大下志穂さんのサイト
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