齊藤頼陽

今回登場する齊藤さんは
鳥の劇場という劇団の役者さんです。
彼は螺旋をぐるぐると回っている生き方をしていました。
「果たしてその階段はどこに通じているのか」
わからないままなんとなく進んでいくと
たどり着いたんですね、何幕目かの自分の舞台に。
俳優という仕事をやってる人に興味がある方はもちろん
「自分も何かもがいてる感じがするなぁ…」
と思っている方にぴったりの演目が始まります!

人物図鑑インデックス

齊藤頼陽_index
名前 齊藤 頼陽
職業 俳優
 
 

第3回 演じること。演じきれないこと

イ:齊藤さんが、大学生で芝居を始めたきっかけも、「目立ちたい」という欲求からなんですよね。

齊:そうです。だから、最初は「カッコよく演じる」ことにこだわって、あまり全体の流れは考えていませんでしたね。その後にチームプレーを意識してくると、「自分がこだわっている部分を、なるべく捨てたい」と思うようになってきたんです。

イ:それは大きな変化ですね。

齊:「そういうように思えるようになりたい」というんですか…。これは、願望でもあるんですけど、「全体を考えることによって、自分が逆に輝ける部分がある」というか、「そこにこそ演じる喜びを見出さなきゃいけないんじゃないか」と思い始めたんです。

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イ:「全体を考える」というのは、具体的にどうすることなんですか。

齊:すごく当たり前のことですが、演劇は、お客さんが観に来なければ始まらない、自分たちが満足するんじゃなくて、まずお客さんに満足してもらわなきゃいけないんです、程度問題ですけど。そこを追求していった結果、「自分がこだわっていることをなるべく捨てていく、こだわりから離れてやりたい」という願望が出てくるんですよ。

イ:そういう心境に至るきっかけが何かあったんですか。

齊:演出家の森田雄三さんという方がいて、当時役者のイッセー尾形さんと組んでいた方なんですけど、彼と知り合って一時期芝居の稽古をしていただいた時があって、その時に彼が言っていた強く印象に残っている言葉があるんです。

イ:どういう言葉なんですか。

齊:「僕は自分の好きなものというのが、自分だけの感覚のものだと思うから、全然信じてない。自分のことを信じていない」と言ったんです。

イ:自己否定的な言葉に聞こえますけど…。

齊:(笑)。当時の僕も、全然ピンとこなかったんですけど、今自分なりに解釈すると、それはたぶん「自分が『いい』と思うことにこだわることはくだらないことで、そこから離れて物事を見るべきだ」ということを言いたかったんだと思うんですよ。彼にその真意を確かめてないですから、わかりませんけど…。

イ:その言葉を意識しながら、今芝居をやっているわけですね。

齊:最近、そう言われたことを思い出しますね。「そうなりたい」とも思うし、できたらいいんですけど…。

イ:それは、「自分でいいと思うことを過信しすぎるな」ということでもあるような気がします。

齊:自分がいいと思う感覚を100%信じちゃうと、だいたいろくでもない芝居になりますね。演じる時は当然集中しないといけないんですけど、あまり集中し過ぎちゃうと、「お客さんに観せる」という前提がなくなって、すごく内側に閉じたものになってしまうんです。

イ:自分たちがやってることを「勝手に観てください」という、観客を置き去りにした芝居になるということですね。

齊:そうです。だから、演じているところをお客さんに観せるというように、スタンスを開かなきゃいけないんですよ。一方で演技に集中しながら、一方で観せる。「集中しながら開く」みたいな感じで…。そのバランスが結構難しいんですけど、僕の経験では、自分に対するこだわりみたいなものを上手く捨てるとできるようになっていく気がします。

イ:それは、おそらく言葉ではなく、経験によって感じ取るものなんでしょうね。

齊:頭で理解するんじゃなく、感覚を掴まないとできないから難しいんです。初めのうちはそういうことが全然わからないですからね…。言われてもピンとこないし…。

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イ:そういう感覚は、舞台上では常に一緒にやっている方ならわかると思いますけど、客演する方が入ってくると、かなり違った化学反応みたいなものが起こるんでしょうね。それは、良い反応ばかりじゃないと思いますけど…。

齊:悪い反応が起こることもありますよ。そういうことが落ち着いてできるようになるには、ある程度場馴れしていないと難しいでしょうね。いきなり放り込まれると、緊張して上手くできないですよ。

イ:でも、それを上手くやれる人もいるんでしょうね。

齊:できる役者というのは対応力があります。自分をある程度出しつつ、相手のことも受入れてプラスにして返していくというんですか…。キャッチボールだと、最初は投げ返すだけで一生懸命なのに、次第に変な投げ方で返してみる、予想と違うパスを出してつないでみるというようなことをやりだして、芸術的に美しいものに仕上げていきますね。能力の高い役者はそういうところを上手くやりますよ。

イ:それでも舞台全体として調和がとれているんですか。

齊:うまい役者というのは、全体としてエゴの現れになり過ぎていない、調和のとれた演技ができると思いますよ。

イ:僕は観てもわからないと思いますけど、仮に演技が下手な役者と共演した場合、舞台の調和を図るためにその人に合わせていくんですか、それとも場合によってはその人を置き去りにしていくものなんですか。

齊:引っ張り上げるというか、その人を一生懸命話しの中に引きずり込もうとはしますね。直截的にどういうようにしたらやりやすいかという話をすることもあるし、切り口を変えてみるとか…。僕はあまりそういうことを上手くできる方じゃないから、待っちゃうことが多いかなぁ…。だから合わせているつもりはないけど、自ずと合わせてるということになっちゃうのかな…。僕もそういうように思われている場合もあるだろうから、あまり大きな口はたたけないですけどね…。

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イ:演技について少しお話を伺っただけですけど、かなり奥が深そうですね(笑)。役者さんがそこから離れられなくなるのも、なんとなくわかってきました。

齊:(笑)。個人的な話になると、僕は「自分が本当に演劇が好きなのか?」という根本的なことを考えることがあるんですよ。

イ:ここまで話していて、好きかどうかわからないんですか(笑)。

齊:おそらく好きなんですよ(笑)。でも、すごく胸を張って「自分はすごく演劇が好きだ!」と思える瞬間があまりないんです。みんなそんなものかもしれないですけど…。

イ:それは、先ほど話にあった「自分が楽しむより、まずお客さんに楽しんでもらう」ということも関係があるような気がしますけど。

齊:確かに、「お客さんにどう良く観てもらおう」とか、周りとの調和とかを考えることが第一で、まず自分が楽しむ、気持よくなるというためにやっちゃいけないという縛りはあります。観せるために動きに制約がつくこともあるし…。

イ:そうなると、自分が気持ちいいところに入っていけないかもしれませんね。

齊:上演後に、お客さんから「良かったです!」って言っていただけるのは、すごく満足感が得られることですけど、それとは別に、体の中から湧き起こるような、自分自身にとっての満足感、達成感は、あまり経験した記憶がないんですよ。

イ:それは演劇をやり始めてからずっとですか。

齊:…思い出せませんね(笑)。でも、終わった後に「もう辞めてやる!」と思ったことは今までに何度もありますよ。ホントにめんどくさいし、つらいし…。同じことを何度も繰り返しやるしね。微妙な変更もたびたびありますから、疲れるししんどいですよ。だからそういうのが溜まると「もうやってられるか!」と思うことは今までたくさんあります。ただ、本番が終わってしばらくすると、また次の芝居のことを無意識に考えだしているんですよ。「どうやって組み立てていこうか」ということをやり始める…やり始めちゃうと最後までやるんですよ。

イ:それは、性(さが)に近いもののような気がします。

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齊:心の底では、「好きなんだろうな」「性に合っている」と思っているからやり続けているんでしょうけど、すごく深い満足感を覚えた記憶というのがあんまりないんですよ。自分でも「何なんだろう、俺」って思うんですけど…(笑)。

イ:齊藤さんの場合は、それを求め過ぎているんですかね。でも、葛藤しているという意味を含めて、やはり齊藤さんはプロですよ。

齊:僕の性分もあるんだと思いますよ。何をやっても「楽しむ」っていうよりも、「とにかくやり遂げて責任を果たす」という意識の方が強く働いちゃって、心底楽しめない。振り返っても、楽しかったとか、羽目を外してやったということは、あまりなかったかもしれないなぁ…。

イ:劇団の人達は、どう感じているんでしょうね。

齊:僕は言いたいことを溜めないでバンバン言って、自分のペースで物事を動かすというところがあるので、「結構気楽に楽しんでるじゃないか」と思われているかもしれませんね。

イ:置かれている立場でも、印象が違ってくるということがあるんじゃないですか。

齊:僕は劇団では古株の方なので、言いたいことも言えるし、やりたいこともやれるポジションにいると思いますけど、それが「楽しいか」と言われると、それよりも「やらなきゃいけない」「まだやれていない」というようなプレッシャーを感じながら生きているというところがありますね。

イ:でも、それだったら、齊藤さんの「心の底から楽しい」っていう演技の引き出しは、三つぐらいしかないんじゃないですか(笑)。

齊:言われてみると確かに「すごく楽しい~!」っていう時の演技は似ちゃうかもしれませんね…(笑)。

(取材/2013年10月9日)

鳥の劇場   ホームページURL:http://www.birdtheatre.org/

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