今回登場する齊藤さんは
鳥の劇場という劇団の役者さんです。
彼は螺旋をぐるぐると回っている生き方をしていました。
「果たしてその階段はどこに通じているのか」
わからないままなんとなく進んでいくと
たどり着いたんですね、何幕目かの自分の舞台に。
俳優という仕事をやってる人に興味がある方はもちろん
「自分も何かもがいてる感じがするなぁ…」
と思っている方にぴったりの演目が始まります!
名前 | 齊藤 頼陽 |
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職業 | 俳優 |
イ:鳥の劇場は、これから可能性がまだまだありそうですね。
齊:ありますよ。今、種を蒔いていて芽が出ていないものあるし、これからやりたいことはたくさんあります。
イ:具体的にはどういうことですか。
齊:まずやりたいことは、教育の現場に入っていくということです。子供たちに身近で演劇に親しんでもらって、彼らが大人になる過程で、その輪がどんどん広がっていくというのがひとつの理想形です。
イ:演劇が身近にある環境を作りたいということですね。
齊:以前通っていた銭湯で、よく一緒になったおじさんがいたんですけど、その方は元プロ野球選手だったらしいんです。お芝居には全然興味がなさそうなのに、話が弾んで「頑張れよ」って言ってくれる…。僕は彼みたいな人たちに、「町に劇場があった方がいい、劇場が必要だ」と思ってもらいたいんです。
イ:確かに、劇場は病院や図書館みたいに「必要」というものではなく、「あってもなくてもいいもの」と感じている人は少なくないと思います。
齊:僕は、劇場も「あった方がいい」というものになってくれたらいいなと思っているんです。誰もが気軽に「ちょっと劇場にでも行ってみるか」って言い出したらすてきですよね。
イ:昔は、娯楽のひとつとして地域に演劇を楽しむ小屋があったみたいですけど、そういうイメージなんですか。
齊:今の時代に、それと同じような形態でやるというのは難しいでしょうね。テレビや映画、インターネットなどがありますから、娯楽性だけで太刀打ちはできないと思います。だから、もう少し文化の拠点というような意味合いをつけていく必要がありますね。
イ:単なる娯楽施設というものではない、新しい形ということですか。
齊:たとえば、病気になったら病院へ行く、文化的な好奇心を刺激したり、気持ちを満たしたい時には劇場に行くみたいなイメージですね。
イ:それは、芽が出てきている気がしますけど…。僕もたまに観に行っていますから(笑)。
齊:進みつつありますけど、「もう一、二段上に行けるんじゃないか」という気がするんですよ。さっき言った銭湯にいるおじさんのような、普段劇場に足を運ばない人たちが、一回は行ったことがあるぐらいにはしたいんです。別にお芝居を観るのが目的じゃなくても、ふらりと立ち寄ってくれる感じのものにしたい。そういう意味ではまだまだです。
イ:そのためには仕掛けが必要だし、時間もかかりますね。
齊:その夢、長期的な目標にたどりつくためのひとつとして、教育にもかかわりたいんです。
イ:教育に演劇が絡んでいく、というのは面白そうですね。
齊:実際にやってみると、先生と生徒という固定された人間関係の中に、僕みたいな異物が入って演劇というツールを使うと、新しい物を生み出せるという感じがあります。そういうところで役に立てるということが、自分が根を広げていくことにつながっているんでしょうね。
イ:そういう方向性というのは、中島さんや齊藤さんだけではなく、劇団の方全員が共有されているんですか。
齊:そこのところを話し合ったことはないですね。でも、「演劇をこのままやっていくと他のメディアに負ける」という認識はみんなが持っているはずです。
イ:何も手を打たないと、演劇はこれからますますマイナーな存在になっていくということですか。
齊:これは世界的な流れなんですよ。もともと劇場文化というものが根付いている国でも、他のメディアに押されつつありますから…。だから、仲間と話し合っていなくても、「みんなの生活の中に占める演劇や劇場の割合を増やさなきゃいけない」というのは、共通認識としてあると思います。
イ:そのためには、教育という切り口が入りやすいということなんですね。
齊:そうです。教育を意識している演劇人は僕や中島だけではなくて、全国的にみると青年団を主宰している平田オリザさんなどもそういう発言をしています。だから、危機意識を持っている人、将来を模索している人は多いと思います。
イ:齊藤さんのイメージに近いものを実践されている劇場は、国内にあるんですか。
齊:僕の知る限り、ないですね。
イ:そういう目標に向かっていくとなると、やらなきゃいけないことが広がっていくわけですから、役者という仕事からどんどん離れてくという気がしますけど…。
齊:演じるということだけで言えば、「もっと上手くなりたい」という気持ちがあるから、やり続けていくと思うんですけど、これからできそうなことはたくさんあるわけですから、それを形にしていきたいとも思っています。
イ:やっと自分の居場所が作られつつあるという感じですね(笑)。
齊:僕は、「居場所を探して居場所を作る」ということをずっと繰り返してきたのかもしれませんね。それが見つけられただけでもいいですよ。たまたま僕には演劇があって、今ここに居場所があるという感じです。
イ:今までの話を伺うと、鳥取に来られるまでは、大きな道の選択は人に委ねるというか、導かれているという印象でしたから、居場所が見つけられて良かったです(笑)。
齊:迷いながらずっと螺旋をグルグル回ってるっていう感じでしたから…(笑)
イ:僕は、お話伺う前、表現することを仕事にしている人達は、「衝動はあるけど迷いはない」と思っていたんですけど、僕達と同じようなことに迷いまくっているようで安心しました(笑)。
齊:たぶん、みんなそれを表に出さないだけなんだと思います。蓋をして知らんぷりしているとか、表に出さないとか…。
イ:ある意味で、それも演じているというわけですか。
齊:想田和弘さんという映画監督の方がいて、平田オリザさんと青年団をテーマにした「演劇」という作品を撮るために、鳥の劇場に来られたことがあるんですけど、僕が彼に演じることなどの心情や迷いを打ち明けた時に、彼が、「アーティストはみんなそういう風に思いますよね」って、ぼそっと話してくれたんです。このぐらいの方でも、表に出さない、感じさせないような不安を抱えているんだなって感じました。だから、誰もが不安や葛藤を抱えていて、表に出すか出さないかだけの違いなんだと思います。僕も普段はこんなに表に出しませんけどね…。
イ:今回の齊藤さんは、演じているというよりも、さらしているという感じですけど(笑)。
齊:「さらしている自分を演じている」というのはあるかもしれないですけど、人間誰でも生活の中で演じているということはありますよね。そういう意味で演劇は、入るハードルは低いんですけど、入った後にそれを人工的に作って意識してくという作業があるから大変なんですよ。そこから先に進むためには、無意識の世界に入っていくようなことになるから、突き詰めて行こうとすると壁にぶち当たるんです。
イ:そうなると、素の自分がわからなくなってくるんじゃないですか?
齊:この間も、「齊藤さんってどれが素なのかわからない」って言われたんですよ。僕にとってはどれも自分の素なんですけど、それを疑い出すと哲学的な話になってきて、精神的に破綻をきたしてくるような気がします。大きな舞台に立ってやっている人の中には、その境目がわからなくなっておかしくなる方がいるって言いますけど、その気持はわかりますよ。だから、そのあたりにはあえて触れないで、スイッチを切って考えないようにしています。
イ:そのスイッチ、入れたくなる衝動が起こることはありませんか?
齊:だから、触れたい気持ちが起こった時は、それを全部外に出すようにしています。普段はこんな喋んないですけど、今日は出していましたね(笑)。
イ:ということは、当分の間スイッチには触れなくてもよくなったということですね(笑)。今回は、自分の気持ちに正直なお話だったと思うんですけど、「素を演じていたのかどうか」については、読んだ方に委ねることにしたいと思います。
齊:それがいいですね(笑)。
(取材/2013年10月9日)
鳥の劇場 ホームページURL:http://www.birdtheatre.org/
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