井田速美

今回登場する井田さんは、梨を作っている農家の方です。
なんだか生きづらい世の中で、
「この道は危ないな」って思っていても、
とりあえず大きな流れに身を任せてしまう…。
そんな方は多いと思います。
「ちょっぴり不安だけど、自分の道を進んでみよう!」
少しずつ、少しずつ…。
迷っている方の背中を軽く押してくれるお話です…。

人物図鑑インデックス

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名前 井田 速美
職業 農業
 
 

第4回 こだわりが紡ぎだすもの

イ:子供さんはいらっしゃるんですか?

井:娘が二人います。

イ:後継は考えたんですか?

井:女の子二人じゃとても農業はさせられないです。

イ:じゃあ、後継については何も言わなかったんですか?

井:言いませんでしたね。男の子なら「何とかせぇよ」って言ったかもしれないですけど…(笑)。でも、継がせる時には同じものではいけないと思うんですよ。

イ:「同じ物」?

井:これから農業をするなら、「まず自分で考えてやらなければいけない」ということです。そうじゃないと、たぶん親の後を継いで受け身で梨を作っても、気づかないことが多いと思うんです。たとえば、何か他の物を作りながら梨の良さに気づくとか…。「儲かりそうだな」でもいいですね(笑)。

イ:「回り道をしても、まず自分で考えろ」ということですか。

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井:親と一緒にやっている後継者がいますけど、なんか覇気を感じないんです。同じものを作って、親も大した技術を持ってないから、子供にも技術がない。他の人に学ぶわけでもない。「作ろう!」という信念がないんですよ。「今までそうやってきたから」って、ただその通りにやっているだけです。

イ:単に「継いでるだけ」ということですか。

井:この地域は狭いのに、疑問に思ったことや知りたいことを訊くために外に出ていくということもないですね。出たとしても、個人で「ここに行きたい!」というのではなく団体で行く。自分だったらあちこち「行ってみたい」って思うんですけどね…。そういう衝動がないと新しい時代の農業に対応できないと思いますよ。

イ:そういう行動を起こす方は少ないんですか?

井:県外から来た人の方が、かえっていろんな知識をもっておられますし、考え方も違って参考になりますね。今うちで二人働いてもらっていますけど、そういう人はこれからの時代も出てくるでしょうね。

イ:地元で「これは」という方はいないんですか?

井:いますよ。たとえば、お父さんが養鶏業で、息子がサラリーマンで県外に出ていて、その後帰ってきてやっているんですけど、ネット販売とか自分流の売り方を工夫してお客さんへ直販していると聞きました。結構売上を上げているという話ですよ。まあ県外ばかりにヒントがあるということではないですけど、そういう発想、行動力がある人じゃないとこれから農業は難しいと思います。

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イ:大きく売上をあげて儲けることも意識しているんですか?

井: いや、大きく儲けなくても、自分が本当にやりたいものを何か見つけてくればそれでいいと思います。お金はあった方がいいですけど、農業ではそんなに大儲けできないことがわかっていますから…(笑)。なんでみんなお金を求めるのかよくわかりませんね。軌道に乗りだすと、どんどん大きくしたくなるんでしょうか…。

イ:大きくしていくと、時代の変化に対応していくのも大変でしょうね。もちろん小さくても大変ですけど…(笑)。

井:農業でも、TPPなど大きなうねりがある。大きな変化は必ず来ます。いくら抵抗しても…。変化に柔軟に対応できるのは、自分の考えを持っていて行動できる人でしょうね。いろんな視点でしっかり見ておくと、自分のやるべきことが見えてくると思います。自分はまだ見えてないですけど…(笑)。

イ:それは、すべての仕事に当てはまりますね。

井:そうかもしれません。

イ:生き辛いけれども面白さもあるというか…、変化が激しい時代は自らが考えて行動する人にとっては悪い時代ではない気がします。

井:それはよくわかりませんけど、先日大山であった農業の全国大会でも面白い方がいましたね。

イ:どんな方なんですか?

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井:熊本の方なんですけど、筑波の酒米を分けてもらってそれを少しずつ増やして、地元の酒造会社でお酒にしてもらっているんですよ。普通蔵元は地元の米で作るから、そんなことはしないらしいんですけど、やってしまう。面白いですよね。「今度馬刺しを食べに行きます」って言っておきましたけど(笑)。それから岐阜の方は60歳ぐらいなんですけど、結婚してから、七面鳥を飼いたいって単身でアメリカに渡っているんですよ。

イ:単身で七面鳥ですか(笑)。

井:でも、やっぱり七面鳥では食べていけないことに行ってから気がついたって…(笑)。

イ:確かに、私も七面鳥はほとんど食べませんね(笑)。

井:それで帰ってきたんですけど、生きていかないといけない。あそこは鮎で有名だから、川に行って捕まえてきて商売したり、椎茸の栽培を始めたり…。体験して体で覚えていくんでしょうね。話を聞いていて「すごいな、なるほどな」って思いましたよ。

イ:その方は、現在も椎茸の栽培をされているんですか?

井:しています。独特の椎茸菌で栽培していて、かなりこだわっていますよ。私も今度はそれを取り寄せて作ってみようかと思っています。自分で食べるために…(笑)。

イ:井田さんも相当なこだわりようですよ(笑)。

井:その方の三人息子さんは、最初会社勤めをしていたんですけど、椎茸で儲かり始めて今は後を継いでいます。「知らない間に三人が働きだした」って言っていましたけど、儲かっているから後継者が育つんです。

イ:自然な流れでそうなったんですね。

井:後継者っていうのは、儲からないと育たないですよ。そういう気持ちを持って行動していたら、どこかで誰かに出会えるんですね。いろんな所に出ていって、年齢に関係なく酒を飲みながらいろんな話をする…。これは大切ですよ。

イ:思いが同じだから話が通じるんでしょうね。

井:それぞれが自分で工夫しながら技術を身につけているから、話がわかるんですよ。もし何も持ってなかったら話をしても響きません。思いを持ち続けていると、どこかでふっと自分が望んでいる人に出会えるんですよね…。

(取材/2013年8月20日)

井田農園
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