射場守夫

今回登場する射場さんをひとことで表現すると
「へんな人」「かわった人」です。
常識に絡め取られている人には確かにそう見えます。
でも、さまざまな立場や考え方を超えて
自由な視点でものを見て行動できれば
これから違う生き方ができるんじゃないか…。
そう思わせる「へんな人」なんです。
このお話「なんだか、自分は常識が染みついちゃってるなぁ…。」
と思っている人には、結構効くクスリかもしれません…。

人物図鑑インデックス

射場守夫_index
名前 射場 守夫 (いば もりお)
職業 弁護士
趣味 遺跡めぐり/ ドライブ
 
 

第1回 フリーター、弁護士をめざす

イ:射場さんは、現在、奈良県大和高田市で弁護士事務所を開業されていますが、それまではどういう経歴なんですか?

射:大分県の出身で47歳(取材時)になります。高校卒業してから岡山県に行って、フリーターを経て、現在弁護士をやっています。

イ:なぜ、高校卒業後に岡山へ行かれたんですか?

射:大都会は怖いし、とにかく「親元から離れたい」という気持ちが強かったので、ある程度距離があるところ…それを高校生なりに考えて岡山にしました。

イ:とりえず岡山に行って、それから仕事を探したということですか?

射:そうですね。あまり先のことは考えたくなかったですし、「生活できれば、仕事は何でもいい」ぐらいに思っていましたね。

イ:それで、最初にどんな仕事をしたんですか?

射:学習教材の販売だったかな…。数か月しか続かなかったですけどね。

イ:その後は、どういう仕事を?

射:自動車の運転免許を取得してからは、夜間に運転代行など車を使った仕事を長くやっていました。途中からは昼間も仕事をして、夜に代行で働くという生活です。

イ:昼間の仕事で印象に残っているものはありますか?

射:いろいろやりましたけど、印象が強いのは宅配の運転手、ガソリンスタンドの店員、せんべい屋の配達などですね。

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イ:フリーターの仕事は、どういう姿勢でやっていたんですか?

射:僕が働いているバイト先は、「社長=会社」みたいなところが多かったですから、愛社精神や忠誠心はほぼゼロで、むしろ手を抜きたいと思っていた方です。でも、面白くないというわけでもなかったですね。

イ:働くことを面白くしているものは何だったんですか?

射:それは仕事そのものですね。車が好きだったので、トラックの仕事で遠方に行く時はうれしかったですね。

イ:トラックの中で自分の時間を楽しめるという感じですか?

射:ええ(笑)。行ったことがないところに行くことや、訪問先に子供がいて笑ってくれるとか、些細なことに仕事の喜びを感じていました。

イ:小さなことに面白さを見つけて頑張るという感じですね。

射:そうです。だから、休まずに働いていましたよ。会社には魅力を感じませんでしたが、仕事そのものが面白いっていうのと、子供がいましたから、生きてくための糧という部分で働いていましたね。だから、今の若者のように人間関係がダメになる、仕事が面白くない、だから辞めるという気持ちは全然なかったですよ。

イ:生きるために働くという状況だったんですね。

射:すでに子供が3人いて、生活のために働かなきゃいけない状況で、バイトではそれなりには稼いでいましたけど、30歳になってそれらを全部辞めてタクシーの運転手を始めました。

イ:それは、何か理由があったんですか?

射:司法試験を受けるためです。それまでは立ち仕事が多かったので、タクシー運転手だったら「座れるし、待機の時間も多いから勉強ができるんじゃないか」と思ったわけです。おまけに個室ですからね(笑)。

イ:なぜ司法試験を受けようと思ったんですか?

射:まず、漠然としたイメージとして、今まで肉体労働ばっかりだったので、「何か頭脳労働でもやろうかな」とは思っていましたね。自分が「絶対になりそうにないもの」「でも、なってもいいかな」と思う仕事を考えていた時に、司法試験・弁護士ということがフッと思い浮かんだんです。だから思いつきですよ。

イ:思いつきで選んで取得できる資格じゃないと思いますけど…(笑)。「なりそうにないもの」ですか…。

射:それまで僕は資格というものがすごく嫌いだったんです。だから、資格を生かした仕事を選ぶということは考えられませんでした。「なりそうにないもの」というのは、そういう意味です。

イ:資格が嫌い?

射:ええ。たとえば大学卒業資格とか、弁護士資格など、世の中にはいろんな資格があるわけですけど、それが全然いいものだとは思えなかったんです。

イ:なぜそう思うんですか?

射:だって、そこに安住している人っていうのは醜いじゃないですか。

イ:それは言い換えると、「資格取得がゴールになっている人」ということですか?

射:ゴールとして考えている人は、ゴールしたら何もなくなるんじゃないかと思いますけど…。それよりも「資格を振りかざしている人」ですね。「資格があるから偉い」とか「先生だから偉い」とか、そういうのが嫌いだったんですよ。

イ:だから、それまでは意識して資格のない方向に進んでいたということですか?

射:そうです。資格が評価されるという仕事はしたくなかったので、その反対側で仕事をしてきたわけです。それでも自動車免許は取りましたけど(笑)。「その対極の仕事をやりたいな」と思い始めたわけです。

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イ:弁護士を目指すということは、今までやってきた誰でもできる仕事(資格が必要ではない仕事)と比べると、正反対の仕事ですよね。普通に考えると、それは大変困難なことだと思いますけど…。

射:結局、僕は「誰にでもできるような仕事をしているけれども、たとえば弁護士のような人たちを、そこから見て嘲笑っている」ような気持ちだったんですよ。だから、「そこに自分が行けないということはあり得ない」と思っていました。

イ:でも、それは世間、特に「仕事には上下がある」と考えている人に「嘲笑われている」ということにはなりませんか?

射:ええ、世間一般からするとそういう考えは馬鹿にされるでしょうね。でも、馬鹿にするより馬鹿にされている方が実は偉いんじゃないか。カッコ悪いほどカッコイイ。つまり世間が言うカッコ良さとかから自由になった人間の方がカッコイイという考え方もあるわけですよ。

イ:それで、実際に司法試験に合格されたわけですか…。最難関資格と言われているわけですから、いくら努力しても合格しないということはあり得ますよね。

射:いや、「合格しないはずはない」ぐらいに思っていました。もちろん、ものすごく勉強してようやく合格するという世界ですから、そんなに簡単に合格できるわけじゃありません。いざやってみると、当然大変さというのはあって、「こりゃどういうことか?」と自分で思い直すわけです。

イ:それはどういうことですか?

射:最初から「自分は絶対に弁護士になれるはずだ」と思っているわけですけど、実際にやってみると大変なわけです。当たり前ですけど…(笑)。「その気持ちと、現実との差をどう合理化するか」というテーマがあるわけです。

イ:「合理化する」というのはどういうことですか?

射:頭だけで「やれるやれる」と思っていても現実にぶつかります。それでも、「自分は絶対やれる」という思いで更に前に進みたいわけじゃないですか。普通は現実にぶつかった時に、気持ちが折れたりするということもあると思うんですけど、それは許されないんです。自分のプライドが許さないわけです。

イ:それは、そもそも「思っちゃいけないこと」だということですね。

射:そうです。「いかに前に進むか」という時の発想の基本となるのが、「山に登ってみなければ、その高さはわからない」ということです。だから気持ちが折れる前に「登ってやるか!」と、更に前進するわけです。

イ:あきらめるという選択はないんですね。

射:ありませんね。最初から現実の問題にぶち当たって、「じゃぁ、他に行くか」と弁護士になるコースをあきらめるということになると、合理化の必要性はありません。でも、それでは「自分の気持ちは守れるけれど、現実には何も得られない」ということになりますよね。

イ:「進むか、退くか」という葛藤は、いろいろな場面で誰にでもありますね。

射:自分を大切にする人は、葛藤にこだわり過ぎるんですよ。実はそれは保身で、その気持ちを切り捨てるという自分に対する冷酷さが必要なんですよね。保身に走ると何も得ることができませんよ。

イ:保身は許されない…。

射:そうです。だから更に前に進もうとします。でも、当然困難さが増してきますから、自分の気持ちと現実を整理しなければ前に進めなくなります。

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イ:どう整理していくんですか?

射:まず、「今の自分が感じている困難さというのは果たして現実のものなのかどうか?」と考えます。当然「絶対できる」とは思っているけれど、同時に「困難である」とも思っているわけです。その「困難さ」つまり「弱気の虫」をいかに整理するか、退治するかという時に発想として出てくるのが「登ってみないと高さがわからない」ということです。

イ:確かに、ほとんどの人は、困難であればあるほど登る前に高さを感じてやめてしまいます…。

射:そこが心の弱さであり、ダメなところなんでしょうね。だから「本当に自分にできないのか?」と思い直すと同時に、現実をちゃんと目盛りで測って「今、自分は山のどのあたりにいるか」を冷静に確認しながら登らなきゃいけないわけです。

イ:でも、そもそもの高さがわからないと、「自分がどのあたりにいるか」というのはわからないんじゃないですか?

射:それは、受験の予備校などがありますから、「自分が全体の中でどのあたりにいるのか?」ということがわかるわけです。到達点は最低でも合格ラインなわけですから、それが受験生全体の上から何割であるかも、自分の客観的な位置もわかるわけです。

イ:だから、高さがわからなくても、頂上に行けるかどうかは客観的に把握できるということですか。

射:そうです。誰にも「自分が感じている高さ」と「現実の高さ」があるんですが、実際はそれぞれ違う高さなんです。でも、多くの人が同じ高さだと思い込んでいるんでしょうね。

イ:でも、そういう強い気持ちがあるのなら、もっと早く弁護士を目指せば良かったんじゃないですか?

射:タイミングや心が熟する時期は、人によってそれぞれ違うじゃないですか。そこが自分にとってちょうどいいタイミングだったわけです。

イ:もし、三人の子供さんがいなくても、弁護士を目指していたと思いますか?

射:それはなかったかもしれませんね。たとえば、「子供が『進学したい』と言ったらどうするか?」というようなことを考えて弁護士を選んだというところはありますね。

イ:子供さんが小さい時からそういうことを考えていたんですか?

射:ええ。自分の経済的な理由で、子供の人生の選択肢を限定させてしまうというのは嫌だと思っていました。

イ:それが、「いろいろなものが重なった今のタイミングで司法試験に挑む」という決意・行動につながるわけですね。

射:そうです。

(取材/2013年4月3日・4月17日)

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