野嶋功

野嶋さんは、会社を経営する傍ら
トライアスロンやライフセービングクラブなどの
要職に就いて活動をしている方です。
お金じゃない「たからもの」をたくさん持っているんですね。
はやりの「ワークライフバランス」じゃなく
「ワーク<ライフバランス」。
そのヒントが散りばめられたお話がはじまります…。

人物図鑑インデックス

野嶋功_index
名前 野嶋 功
職業 不詳
 
 

第4回 守るために攻めてみる

イ:鳥取県米子市は、日本のトライアスロン発祥の地ですけど、県内のトライアスロン大会は皆生以外にも結構ありますよね。その中に、野嶋さんがかかわっているものはあるんですか?

野:湯梨浜大会(県中部)や岩美(県東部)である大会などのほか、ほとんど立ちあげから参加しています。予算積算から始まって、組織やコースづくりから、行政対応など…。簡単に言っていますけど、立ちあげは結構大変ですよ。

イ:何でそんな大変だとわかっていることを、やろうとするんですか?

野:だって、やる人がいないから。小さい大会でも運営には500人以上のボランティアを含めた関係者が必要になります。その運営方法がわかっていて仕切れる人は、あまりいませんからね。

イ:でも、最初から大変なことがわかっているのなら、やりたくない、やらない、と考える人は多いと思いますよ。

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野:一個人としてだけで考えたらしないでしょう。だけど、やっぱりトライアスロンの将来を考えたら、誰かがやる必要がありますよね。皆生大会をこれからも続けていく、更に大きな大会にしていこうと思うなら、当然毎年同じことを続けていくのではなく、進化させていく必要があると思います。裾野を広げていくということもそのひとつです。そういう積み重ねや広げる努力をしなかったら、結局は皆生大会も残せなくなると思います。そういうストーリーを作って、実際に行動していくことはとても重要なんです。

イ:「守るために攻める、広げる」というわけですね。

野:そうです。そして更にその先のストーリーを描くと、たった1日の大会を開催することだけではなく、存在そのものがこの地域の生活の一部であり文化というところまで根付く必要があると思います。そこまでいかないと、本当にみんなが「残していこう」っていう気持ちにならないんじゃないでしょうか。そのためには、大会の広がりを下支えするものがないといけませんけどね。

イ:それは何だと思いますか?

野:誰でも参加できる入門的な大会開催することもそのひとつです。トライアスロンを純粋に楽しむことのできる大会。それをいくつも作りたいですね。今ある大会も、コースを工夫したりすれば、もっと楽しめると思いますよ。

イ:確かに、楽しむためにはコースの工夫も大切でしょうね。

野:やはりスイムは海を使ったもの。自転車も登って終わりじゃなくて、コーナーがあってぐるぐるっとまわって沿道の沢山の人たちに応援してもらえるコース作り。ランニングも海を見ながら素晴らしロケーションの中を走るような大会を作っていくと、子供達のモチベーションも上がりますよ。実際に、たとえば岩美の大会は、大人だけじゃなくて、中学生の大会も併設していますし、湯梨浜の大会は中学校と高校の部を作っています。

イ:子供の時に楽しむレースがあって、そこから湯梨浜や岩美の大会に出て、皆生大会に参加するという流れがすでにあるんですか。それに、応援やボランティアも広い意味で文化のひとつと言えますね。

野:そうですね。

イ:今までお話を伺った構想は、どのぐらい前から野嶋さんの中にあったんですか?

野:鳥取県トライアスロン協会を立ち上げ時期だから、94年頃ですね。その時に、子供たちを対象にした教室を年数回やってトライアスロンの楽しさを教えることにしました。この教室は、今は年に12回くらいやっていて、その参加者が県内外の大会に出るようになりました。いつかは大人になってもう一つ上のレベルの大会に挑戦するようになると思いますよ。

イ:すごく高い視点と行動力があったんですね。しかも以前から着実に実行されているとは驚きです。

野:結構深いでしょ。やはり、守るための戦略を常に考えて行動しないと。危機になって慌てふためいたって誰も助けてくれないと思いますよ。捨てられないように、誰から見ても価値のあるものにしていく必要がありますよね。

イ:それにしても、今までのお話は、仕事や家庭を持ちながらできる範囲を軽く超えていますよ。バランスが崩れています(笑)。

野:確かにしんどい(笑)。本来、今の時期はオフのシーズンですごくリラックスできるんですけど、この5~6年は本当に休めなかったです。それで、遂に去年の7月に倒れました(笑)。仕事や事業が目白押しで体が悲鳴を上げていたんですね。

イ:体調は良くなってきたんですか?

野:一段落して、ジョギングを始めたら体調も回復して、最近は毎日おいしい酒を飲んでいます(笑)。バランスが良くなりました。

イ:それにしても、野嶋さんは構想を練って行動しますね。構想は練るけど行動しない、行動しても誰も巻き込めない人は多いと思いますが、人を巻き込んで、それがうねりになるという人は少ないですよ。ご自身では、それができるのはなぜだと思いますか? なぜ巻き込まれるんでしょうか?

野:お金儲けじゃないから。お金がないから、利権も絡まない(笑)。

イ:お金も儲からないし、苦労が多かったら、やらない方がラクですよ。

野:ラクですね(笑)。でも、たとえばトライアスロンの大会に参加して、自分が楽しんだり何かを得たとしたら、それを何かの形で返さないと。テイクばかりでギブがなければバランスが取れないと思っています。

イ:ギブという点では、トライアスロンの他に、皆生海岸のライフセービング活動もされていますよね。

野:「トライアスロンに加えて、ライフセービングも必要なのか?」っていつも言われますけど、僕は両方ないといけないと思っています。

イ:それはなぜですか?

野:まず、トライアスロンですが、これは自分のための究極のアクティビティなんです。自分のためにやっているのに、沿道から応援してもらって、良い思いをして1日過ごさせてもらえる。こんな、気分のいいスポーツはないですよ(笑)。そういう、地域とボランティアの人たちから受けた気持ちに対して、自分は何かの形で地域に還元していきたいという気持ちが以前からありました。

イ:その気持ちが形になったのが、皆生ライフセービングクラブだったわけですね。

野:はい、紆余曲折があって形になったのがライフセービングクラブです。ライフセービングはトライアスロンの対極、究極の他人に対するアクティビティです。海を事故なく安全にきれいに保つのは、誰かのためにする活動です。

イ:確かにその二つは正反対ですね。

野:僕のイメージでは、この二つは車の両輪という感じです。自分の事を徹底的に楽しむ代わりに、周りの事に対しても徹底的にやるという両輪が伴わないと真っ直ぐに進まない。だから「トライアスロンをやる人たちは、自分以外の人のためになる活動も大切ですよ」ということで進めているわけです。

イ:クラブは何人ぐらいいるんですか?

野:70人くらいですね。みんながその思いを理解した上で活動していますから熱心ですね。

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イ:トライアスロンとライフセービング以外では、どのような活動をされているんですか?

野:スポーツツーリズムという、スポーツを絡めた地域振興策があります。そういうところで、さまざまなスポーツの関係者の方とつながりができつつあって、いろんなプランを考えています。

イ:たとえば、ビーチバレーとスキーだと、接点が全く無くて、集まっても効果がないと思いますけど…。

野:いや、そうでもないですよ。オンシーズンが違えば、大会を開く時に受付とか設営とかの人材を融通し合うことができるじゃないですか。そういうところから交流が深まっていくのはいいことです。

イ:確かに、運営面だけを考えてもメリットはありますね。

野:その他にも、他団体の運営ノウハウとか育成方法とか、参考や刺激になることは少なくないと思います。そうやってつながっていくことによって力が生まれ、良い流れができることだってありますよ。

イ:会社を運営する上でも、ヒントにもなりそうな話ですね。

野:これは、会社運営に限らず、何でも一緒だと思いますよ。いろいろ学んで、人とのつながりができて、結局仕事にもつながっていく。そのつながりっていうのは、私利私欲じゃないから、仕事においても強いものになるはずです。

イ:野嶋さんは、その強いつながりをまったくゼロから作ったわけですよね。これはすごいことですよ。

野:トライアスロンは、4,400名ぐらいのボランティアで運営されていますけど、その中には、いろんなスポーツに携わっている人たちがいるんです。だから、トライアスロンはスポーツ競技者の集合体でもあるわけです。

イ:そこでもつながりができるんですね。

野:そうです。特にトライアスロンには求心力みたいなものがあるんですよ。他の団体の方とつながっていくと、抱えている共通の問題も見えてきます。

イ:たとえばどんな問題ですか?

野:一番の問題は、競技人口が年々減っていることですね。そういう問題を横で共有することは、大きな意義がありますよ。

イ:何でも、底辺を拡大していくことは重要ですからね。

野:そうです。各競技団体の人たちは、競技の普及や競技力の向上が最大目標になりますから、スポーツツーリズムみたいなものがビジネスとしてそれを補完する形ができれば理想により近づいていくと思います。

イ:壮大なイメージですね。

野:さらに言えば、競技者が増えることは、行政の観光振興には関係ないようにも見えますけど、人の動きや情報発信が活発になれば、観光振興の一翼を担うことができるようになると思いますよ。

イ:そうなると面白いでしょうね。

野:面白いでしょ。でも、やる人は大変ですよ(笑)。

(2013年1月25日 取材)

人物図鑑の野嶋さんの画像は、サングラスをかけているものがありますが、目を保護するためのもので、カッコつけて女性にモテるためではないんでしょう…たぶん。

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