野嶋功

野嶋さんは、会社を経営する傍ら
トライアスロンやライフセービングクラブなどの
要職に就いて活動をしている方です。
お金じゃない「たからもの」をたくさん持っているんですね。
はやりの「ワークライフバランス」じゃなく
「ワーク<ライフバランス」。
そのヒントが散りばめられたお話がはじまります…。

人物図鑑インデックス

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名前 野嶋功
職業 不詳
 
 

第5回 無鉄砲だからこそ生まれるもの

イ:ライフセービングの話になりますが、皆生ライフセービングクラブは、オーストラリアで有数のクラブと提携しているらしいですね。

野:サーファーズ・パラダイス・サーフ・ライフセービングクラブ(SPSLC)という団体なんですが、これは巨大な組織で、日本の地方クラブの規模と比較すると、象とアリぐらいの差がありますよ。

イ:どうして、そんな巨大な組織と提携できたんですか?

野:相手がそんなに大きいクラブだとは思っていなかったからです(笑)。

イ:無鉄砲ですね。普通、事前に組織ぐらい調べますよ(笑)。その無鉄砲さは、大学時代に社会的に地位のある方々を平気で取材した姿勢と同じですね。

野:一緒ですね。やっぱり田舎者の強さっていうのは、そこだと思いますよ。立派な人たちと自分たちとの差っていうのをあまり考えない。ずけずけと平気でものを言いますからね。相手が社会的に偉い人だということを感じないんでしょうね。

イ:それは、田舎者の気質というより、野嶋さんの気質じゃないですか?(笑) 組織や肩書きや実績なんかじゃなく、人対人。だから相手も胸襟を開くんだと思いますよ。でも、年齢を重ねてもその気質を持ち続けているところに感心します。

野:ありがとうございます。ほめられているのかな?

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イ:ライフセービングですけど、オーストラリアではどういう感じで活動しているんですか?

野:オーストラリアライフセービング協会があり、各州に協会があります。基本的にボランティアの団体なんですけど、職員を雇って、ヘリコプターもあって、レストランなどを運営しています。クラブは約1キロおきくらいにあるんですけど、SPSLCは、その中でも大きなクラブなんですね。

イ:クラブは、スポンサーからのお金で運営されているんですか?

野:国の支援もあると思いますけど、各クラブはそれぞれスポンサーを持っています。素晴らしい組織。日本では考えられないですよ。

イ:そういう大きな組織が、日本の、日本海側の、小さなクラブと提携する…。ちょっと考えられないですね。

野:でも、彼らの方がそのことを理解してくれたんですね。「無理はしなくていい」「規模に合ったやり方でやればいいよ」と。

イ:国は違っても、相手をリスペクトするということですか。

野:そうですね。今年は、高校生をクラブのメンバーの家にホームステイで受け入れてもらい、現地のトライアスロンチームで世界チャンピオンを育てた指導者に指導を受けることになっています。急なことだったのに…。本当に人間的な部分でつながっていると思います。

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イ:高校生をオーストラリアに行かせるというのは、ロンドンオリンピックのトライアスロンで日本が惨敗したということが影響したんですか?

野:そうですね。あれは僕もショックでした。もう少しはいけると思ったんですけど…。

イ:確か、男子は入賞、女子はメダルを期待されていましたよね。

野:選手は、よく頑張っていました。でも、世界のトップをいく連中は、その上を信じられないスピードで走る。オリンピックの1万メートルに出た佐藤悠基選手。彼は国内で怪物と言われているんですけど、オリンピックのトライアスロンで優勝したイギリスの選手は、10kmをそれと同じペースで走るんですよ。

イ:しかも、3種目目でですか。

野:そうです。これはもう驚愕! 驚き以外の何ものでもない。「世界はどこまで先に行っちゃったんだろう」って感じですよ。

イ:「入賞・メダル」という読みは、桁違いに大きく外れたわけですね。

野:その時に思ったのは、日本のトップになってから世界を目指すんじゃなくて、どんなに若く弱い時代だったとしても、その頃から世界を目指していくマインドを持っていないと、絶対に強くならないと思いましたね。

イ:「世界を見せる」とか「視点を変える」という最初の行動が高校生のオーストラリアへのホームステイだったわけですね。

野:日本では、2016年の国体からトライアスロン競技が正式種目になります。長期的な視点での下地を作るために、まず3年後の国体に標準を合わせる。若い子の中で伸びる可能性のある人にまず世界を見せる。そこで刺激を受けることによって、その下の世代が世界を目指すようになる。そういう流れを作ることによって、さらに「俺もやってみたい!」って思う子が出てくるかもしれないじゃないですか。

イ:だからなるべく早く、今やっておかないといけないということですか。

野:そうです。これでも、結構長期的に見ているんですよ(笑)。

イ:成果が現れるのは、まだ先になるかもしれませんけど、意識が変わってきたという点では、オリンピックでの惨敗も意味があったといえますね。

野:意味のあるものにしなくてはいけません。

イ:それにしても、行動が早い。オリンピックが終わってから、まだ数か月ですよ。

野:所帯が小さいから小回りがきくというのもあるでしょうね。でも、小さいとは言っても、長期的な視点で、先を読みながらすばやく行動しているわけですから、その点は評価できると思いますよ。

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イ:野嶋さんの周りでは、さまざまなことが同時進行で進んでいるようですが、そのやりくりは難しいんじゃないですか?

野:少しずつ役目を振り分けるようにはしています。何でもそうでしょうが、立ちあげの時に一番力が必要です。それが軌道に乗ってくれば、なんとかなるものですよ。大変ですけど…。

イ:そうは言っても、私が野嶋さんの立場だったら、仕事をやりながらトライアスロンその他の作業をするのは、1日が24時間じゃとても足りませんね。というか、その前に引き受けませんけど(笑)。

野:立ち上げの頃は、帰宅が深夜になることもあります。県東部で会議があれば、夜中の1時、2時になります。そういうのが続きます…。

イ:それで翌朝、いや数時間後に仕事するということですか?

野:そうです。だから大変ですよ。

イ:何がそんなに野嶋さんを突き動かすんですか?

野:何かがとり憑いているかも(笑)。

イ:憑いてますよ(笑)。

野:だから、本業の仕事はそこそこで(笑)。1日の流れが決まっているから、そこは集中してやって、そこから先は、事務所に残って本業以外の文書作成とか予算表作成、書類の整理を、これも集中してやっていますよ。

イ:かなりキツイ1日ですね…。

野:だから、僕を知っている人たちは、みんな「野嶋は仕事してない!」「仕事以外のことばっかりやってる!」って言うんですけど、仕事は地味で、それ以外が目立つから、仕事をしていないように見えるだけなんですよ!(笑)

イ:お金にはならないんですけどね(笑)。

野:でも、お金にならない仕事も、誰かがやる必要があるわけですよ。

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イ:今回のお話は、野嶋さんが強く影響を受けた南部忠平さんのスポーツに賭けた思いが、受け継がれたような内容でした。

野:若い時には恥ずかしいくらいスポーツマンシップに欠けた選手だったんですけどね(笑)。

イ:今後について、何か他に考えていることはありますか?

野:「自分のことがしたいな」っていう気持ちもあるんですけど、やっぱり皆生大会は、どんな形でも関わっていきたいし、残していかなきゃいけないものだと思いますね。

イ:トライアスロンの皆生大会は、他の大会と違うところがあるんですか?

野:他の大会と大きく違うのは、人間味のある大会なんですよ。選手の中に人生を投影してる人達ってのが結構多い。

イ:それはどういうことですか?

野:たとえば、仲間や肉親の死だったり、子供が病気と闘っているから、親である自分も競技で頑張る姿を見せて励ましたいとか、遺影を持ってゴールするとか。そういう何か想いを持った人の割合は、おそらく全国の大会の中で一番多いと思います。

イ:なぜ、そういう想いを持った人が多く参加する大会なんでしょうか?

野:たぶん、トライアスロンを日本で最初にやった、その想いの部分だと思いますね。メンタリティがまだ残っている大会だからだでしょう。

イ:人間味とは、大会が選手の想いを受け入れるということなんですね。

野:いろんな想いを持って大会に参加する選手が満足できるレースをしてもらいたい。そういう気持ちを持って、支えようとする人たちがたくさんいるのが皆生大会です。マナーを厳しく言い続けている理由もそこにあります。

イ:だから、想いをぶつけられる場所を残していかないといけないということですか。

野:僕も選手として13年も楽しませてもらった以上は、次の世代の連中、他の人たちにも残していきたい。格好いい言い方になりますけど、それは大きいですよ。

イ:今までのお話の背骨は「構想力」「実行力」。そして人を巻き込んでいくためのキーワードは「無鉄砲」「無私」ということになると思いますが、これは仕事にもつながるものですね。

野:そういう部分は、仕事にも全部つながっていると思いますよ。

イ:まず「最初に金銭、損得でつながらない」というところ、これは仕事でも重要なことだと感じます。

野:たくさんの人が、いろんな形で協力してくれる。その時に何か利益があるような形でお願いしたことはほとんどないですけどね。「お前の頼みなら…」って協力してくれる人がいるのはありがたいことです。財産ですよ。

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イ:最後に「つながる」ということについてお伺いしたいんですが、Facebook などのソーシャルネットワークはやっていますか?

野:Facebook は、最初オーストラリアのセービングクラブの連中から紹介されて2009年に始めましたね。

イ:かなり早ですね。

野:オーストラリアの連中は、当時からメインのコミュニケーション・ツールとして使っていましたからね。

イ:そういうツールを受け入れるのに抵抗はないですか?

野:便利だったらいいです(笑)。最初の頃Skypeを使っていて、「ちょっと重くて使いにくいな」と思っていたらLINEが出て、それを使ってという感じですね 。

イ:「とりあえずやってみよう」派ですね。

野:そう。金のかからない事だったらやってみます(笑)。

イ:仕事での活用も考えていますか?

野:Facebookを使った広報ですね。トライアスロンやライフセービング、アウトドア・スポーツの連絡会も会員限定のページを使って、各団体の情報をどんどん書き込んでもらうようになるといいですよね。

イ:横のつながりができますからね。

野:やっぱり便利な道具はどんどん使うべきだと思うし、それを上手に使っている人たちが成功することも結構あるわけで、学ぶべきことは学ぶ必要があると思います。

イ:新しいモノにも前向きなんですね。

野:知らないよりは知ってた方がいいですよ。でも、ネット上でいくらつながっていても、やっぱり最後は人間同士のつながりですよね。行って話ができるかどうかっていうことが一番大事でしょう。たとえばポータルサイトでも、情報を垂れ流しすることが仕事なんだろうけど、実際に現場に来た人たちに対応する人がそこにはいるわけです。そっちの方の環境や組織も充実させないといけないと思います。

イ:具体的にはどういうことですか?

野:たとえば、全国にはたくさんの有料ガイドさんがいます。トレッキングや景勝地の案内など、観光客に喜ばれるクオリティの高いプロのガイドです。この地域でも、そういうことができないかと思ったんですけど、「お金をもらってまでしたくない」という人が多い。質の高い有料ガイドが観光地の質も高めるという流れになかなかならないし、情報発信はするけど、現地での満足できる対応というところまではいっていないと思います。

イ:なるほど

野:事業として上手くいきませんでしたけど、情報はあるけど人の部分が見えてこないということは、身近にも結構あると思いますよ。だから、受け入れる側の組織作りも意識してやっていく必要があるわけです。

イ:「リアルとネットのバランス」もまた重要だというわけですね。

野:そうですね。

(2013年1月25日 取材)

人物図鑑の野嶋さんの画像は、サングラスをかけているものがありますが、目を保護するためのもので、カッコつけて女性にモテるためではないとは言いきれません。

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