齊藤頼陽

今回登場する齊藤さんは
鳥の劇場という劇団の役者さんです。
彼は螺旋をぐるぐると回っている生き方をしていました。
「果たしてその階段はどこに通じているのか」
わからないままなんとなく進んでいくと
たどり着いたんですね、何幕目かの自分の舞台に。
俳優という仕事をやってる人に興味がある方はもちろん
「自分も何かもがいてる感じがするなぁ…」
と思っている方にぴったりの演目が始まります!

人物図鑑インデックス

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名前 齊藤 頼陽
職業 俳優
 
 

第1回 演劇へようこそ!

イ:よろしくお願いします。おそらく、私を含めて多くの人は「俳優」を職業としている方の話を聞いたことがないし、舞台を観たことがある方も少ないと思うので、基本的なことから伺っていいですか。

齊:何でもどうぞ(笑)。

01

イ:今回の「鳥の演劇祭(H25年9月)」では、鳥の劇場は再演で2つの演目をやって、齊藤さんはそれぞれで重要な役を演じられましたけど、昔やった芝居のセリフは、頭の中にストックされているものなんですか。

齊:いや、覚えてないです。ある程度は残っていますけどね。だから、新しいものをやるよりは、再演する方がラクですよ。

イ:事前の練習は相当やるんでしょうね。

齊:時と場合によります。今回上演した「セールスマンの死」と「天使バビロンに来たる」は再演で、初演からだとそれなりの稽古時間になりますけど、演じる上で大変なことは他にもありますね。

イ:具体的にはどういうことですか。

齊:完成形が見えないことです。僕たちは、やる時点で当然ベストであり、最高だと考えているものを見せるけれど、「いろいろと考えていくと、まだやり方があるかもしれない」という状態で常にやっていて、「これで終わり」というのがないんです。

イ:常に、良いと思うものを追求し続けているわけですね。

齊:そうです。一回公演が終わって「また次やりましょう」という段階で、前回足りなかった部分を足していくというような感じです。逆に削ぎ落としていく時もありますけど。そういう調整を常にやっているんですよ。

イ:それは基本的に、演出家で鳥の劇場を主宰している中島さんが中心でやるんですか。

齊:自分たちで演じていて「こういう感じにもできたな」と思って変えていくこともありますね。頭の中で考えているだけだとわからないことが、他の人と合わせて動いてみて「あ、俺この立場でいるんだったら、こうも演じられるな」と思うことがありますから。

イ:それは、台本だけ追っていたのではわからない部分ですね。

齊:字面だけ追っているとか、頭の中で考えているだけだったら掴めない部分は確かにありますね。それが全部掴めたらもっと効率が上がるんでしょうけど…(笑)。

02

イ:もともと掴むことが上手い役者さんもいるんですか。

齊:いますね。そういう役者は、「いい役者」「できる役者」だと思いますけど、やっているうちに身につけていくことができるところもあります。それに加えて、人間に対する観察力とか洞察力という部分も大きいです。

イ:それは、社会生活を送っていて、いろんな人を観察して、行動や考え方をストックしていくということですか。

齊:そうです。最初は意識していますけど、次第に無意識に刷り込まれていく感じですね。僕達役者の仕事というのは、文章という平面で書かれたものをいかに立体的にするかということですから、自分の中に無意識にストックが積み上がっているほど、文章を読んだ時に立体的にしやすくなるんじゃないかな。

イ:そういうことを簡単にできてしまう勘のいい役者さんもいるんでしょうね。

齊:いますね。でも、社会経験、人生経験を積んでにじみ出るものもありますよ。生きていくと「だてに年をとっていないな」という行動をする人がいるじゃないですか。それと同じです。

イ:齊藤さんは、常にそういうことを考えているということですか。

齊:最近は無意識になっていますけど、昔はちょっと変わったシチュエーションで、自分の中に今までと違った感情の起伏があった時に、「あ、これ芝居に使えるな」と思うことはよくありましたね。それは、役者をやってたら誰にでもあるんじゃないかな…。

イ:そのストックは、演じる上で貴重なものになりますね。

齊:いや、それはむしろ特殊なパターンで、もうちょっと普遍性があって、無意識に刷り込まれていく蓄積の方が大事だったりします。

イ:それはどんな場面で起こるんですか。

齊:たとえば、今回「セールスマンの死」という舞台をやリましたが、これは親子関係がテーマの一つになっている芝居で、父親は息子に期待して、息子はその期待に添えなくてぶつかるという部分があるんですが、前回やった時より僕の中で腑に落ちた点がすごくあったんですよ。

03

イ:それは、「役柄がより理解できた」ということですよね。そのきっかけが何かあったんですか。

齊:一年前に子供ができて、自分が親になったということが大きかったんだと思います。無意識に親子関係が親の目でも見られるようになって、感覚が親にも子にも行き来できるようになった気がします。もちろん、「これ芝居に使えるな」という意識は全然ないんですけど。前回「たぶんこういうことなんだろうな」と思ってやっていたのが、今回はより腑に落ちましたね。

イ:その変化は、演じている本人にはわかることだと思いますが、観客の人たちも感じるものなんですか。

齊:今回「セールスマンの死」を観たお客さんの中に、前回も観に来ていた方がいて、「前回より心に響いた」とおっしゃっていました。その時に、自分に起こった変化について伝えたんですけど、「経験が深まることによって、出てくるものが変わるっていうことが面白いね」っておっしゃっていました。

イ:微妙な変化がわかる方がいるんですね。おそらく僕にはわからないと思います(笑)。

齊:僕は客席から観ていないのでわからないですけど、演じる立場としては今回の方が良かったと思うんですよ。僕たちはより良いものを演じることを目指しているわけですから、一回目の段階で今回のものが観せられれば良かったとは思いますけどね…。

イ:それはなかなか難しいことでしょうけど、「刷り込まれているものは表現できる」ということはなんとなくわかります。

齊:やはり人間が生でやっているものだから、それは出ますね。結局、その部分にかかっているということはあると思います。

04

イ:齊藤さんから見て、劇団で一緒に演じている俳優さんが成長するということ、たとえば「違った引き出しの中を出してきたな」とうことはわかるものなんですか。

齊:わかりますね。いろんな場面がありますけど、自分の投げたものに対してちゃんと投げ返してくれるようになったとか、何かがプラスされて返ってくるとか…。単純にボールを返すんじゃなくて、ボールの返し方が変わってくるということがあるんですよ。

イ:それは、当然役との相性とか、俳優さんとの相性もあるでしょうね。

齊:役との相性でいうと、役作りというのは自身の経験が思いきりフィードバックされるから、自分の経験が深くて、考えていることが近い役の方がやりやすいし、深みが出てくる場合があります。

イ:「自分の地に近い役」の方が上手く演じられるということですね。

齊:ちょっと違います。自分が表で意識している地と、自分が無意識に深く考えていることが、微妙にズレていると感じることはよくあるんです。だから、必ずしも表面的な印象だけで「この人の地に近い役だ」と周りに思われている役がやりやすいかというと、そうでもないんですよ。

イ:俳優さんとの相性という点についてはどうですか。

齊:自分が投げていることを、相手があまり受け取ってくれない場合はありますね。そうなると自分で組み立てていかないといけなくなりますから、一人よがりになって、あまり良いものにならないということも起こります。

イ:「組み立てる」ということは「相手に合わせる」ということですか。

齊:広い意味で言うとそういうことになるのかなぁ…。基本的にキャッチボールと同じで、まず演技というボールが行き来します。でも、相手がいるのに違う方向に投げるとか、自分がいかにカッコよく投げられるかというようなことをやりだして、相手に届くか届かないかなんて考えない演技をしてしまうことがあるんです。

05

イ:「自分が目立てばそれでいい」ってことですね(笑)。

齊:もともと、誰も「目立ちたいたいから役者をやる」というところはありますけどね(笑)。みんながそれをやって逆に面白いということもあるんでしょうけど…。でも、ある程度筋があるドラマをやろうとすると、会話が行き交っているというところを観せることが前提になりますから、それぞれが芝居を組み立てる意識を持って、演技のキャッチボールをしていくことが基本になると思います。

イ:イメージ通りにボールをやりとりするということを考えると、サッカーの方がより近いという感じがしますけど。

齊:そう、そういう感じです。基本的に演技というのは個人プレーに思われるけど、チームプレーを意識しないと成り立たないんですよ。

イ:ということは、特定の役者ばかりが目立つ芝居は良くないということになりますね。

齊:そう思います。サッカーで言えば、シュートを打ってゴールを決める選手は目立つけど、陰で支えている人がいるからこそ得点できるわけで、その全体の流れが美しいとか綺麗だと感じることがありますよね。演劇もそれと同じで、個人技に走ると潰されるんですよ。それをやるとあまり良くないし、一人だけ目立っているチームというのは、一時輝くだけで終わっちゃうんじゃないかと思います。だから、チーム全体として連動していく、「組み立てる」ということが必要になってくるわけです。

イ:なるほど。次回観る時は、ストーリーを追っていくだけじゃなく、俳優さん同士の呼吸とか、劇全体の流れにも注目したいと思います。

齊:たぶん、今までと違った印象が残ると思いますよ(笑)。

(取材/2013年10月9日)

鳥の劇場   ホームページURL:http://www.birdtheatre.org/

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