齊藤頼陽

今回登場する齊藤さんは
鳥の劇場という劇団の役者さんです。
彼は螺旋をぐるぐると回っている生き方をしていました。
「果たしてその階段はどこに通じているのか」
わからないままなんとなく進んでいくと
たどり着いたんですね、何幕目かの自分の舞台に。
俳優という仕事をやってる人に興味がある方はもちろん
「自分も何かもがいてる感じがするなぁ…」
と思っている方にぴったりの演目が始まります!

人物図鑑インデックス

齊藤頼陽_index
名前 齊藤 頼陽
職業 俳優
 
 

第2回 螺旋(らせん)のはじまり

イ:齊藤さんは、どちらのご出身なんですか。

齊:東京です。

イ:鳥取に来られたのはいつ頃ですか。

齊:7年前。33歳の時です。

イ:どんな学生生活を送っていたんですか。

齊:普通に高校に通って、それから大学へ行ってという感じです。その頃は、「いい大学に行って、いい会社に就職する」って考えていましたから(笑)。

イ:演劇はいつ頃から始められたんですか。

齊:大学に入ってからです。

イ:それは、やはり「目立ちたい」という動機ですか(笑)。

齊:そうです(笑)。でも最初に「目立ちたい」と思ったのは小学校の時なんですよ。コントみたいなお芝居をやったんですけど、たまたま僕が主役をやったんです。セリフも棒読みだったんですけど、これがなぜかウケて、楽しくて気持ちよかったから、「また是非やりたい」とひそかに機会を伺っていたんです。

イ:高校には演劇部がなかったんですか。

齊:ありましたけど、部員が一人だったし、進学校だから部活動自体が活発じゃないので入りませんでした。

イ:本格的に演劇をやり始めたのは、大学に入ってからなんですね。

齊:そうです。大学の劇団に入って、学外では現在鳥の劇場を主宰している中島のやっていた劇団でやるという感じでしたね。

01

イ:中島さんの劇団に入ったのは、どういう経緯だったんですか。

齊:彼は東大で学生劇団をやっていて、卒業時に解散したんですけど、その後自分で劇団を立ち上げていたんです。当時、僕は演劇をやりたいという女性と付き合っていて、彼女とたまたま彼の劇団を観に行ったら、気に入っちゃって入団したんですよ。

イ:先に彼女が入ったわけですか。

齊:先ですね。その後、ある作品をやるのにキャストが一人足りないということになって、彼女が中島に僕を紹介したんです。それからは、中島の劇団でやって、大学の劇団には時々顔を出すという感じです。本格的に中島と一緒にやり始めたのは卒業してからですね。メジャーな劇団ではありませんでしたから、生活はかなり厳しかったです。

イ:ということは、アルバイトをして稼いだお金をつぎ込むという生活だったんですか。

齊:そうです。アルバイトはいろいろやりました…。大きな古書店のサイトや在庫の検索システムを作ったりもしていましたね。

イ:その時期は、インターネットもそんなに普及していなかったでしょうから、サイト自体も珍しかったんじゃないですか。

齊:当時、自社サイトを持っている会社は少なかったですね。システムを作って、サーバーを立ち上げてということを手探りで、勉強しながらやりました。アマゾンが古書に手を出し始めた時期に声がかかって、大々的に出品したりもしたんですけど、それを僕が中心になってやっていました。

イ:結局、その後鳥取に行ったわけですよね。そのまま続けていたら、時代の波に上手く乗っていた気がしますけど…。

齊:「こうしたい、ああしたい」というアイデアはたくさんあったので、そのまま頑張って集中してやっていたら、それなりに面白いことになっていたと思うんですけど、そこまで「賭けたい」という気力がなかったですね…。最後はこっち(鳥取)に来ちゃったので、時間が取れなくなりました…。

イ:ネットの始まりの熱い時期を体験できたことは、時代を振り返るとスゴい経験ですよ。でも、そもそもどこでパソコンのスキルを身につけたんですか。

齊:それはまたまなんです。大学の商学部に通っていて、3年の時にゼミに入らなきゃいけないから、面接を受けるんですけどことごとく落とされて、最後に残っていたのがプログラミングをやるゼミだったんです。

イ:当時の商学部でプログラミングのゼミですか…(笑)。しかも行き場がなく…。でも、たまたまやったことが、結果的に時代の先端とリンクしていたということですよね。面白い…。

齊:当時は国内でヤフーができるかできないかという時だったし、大学のホームページ(HP)もなくて、大学名で検索すると、うちの研究室が立ち上げていたHPが表示されるという時代でしたね(笑)。

02

イ:卒業後の進路を考える時期になって、就職をするということは考えなかったんですか。

齊:考えましたよ(笑)。僕は一生の仕事として演劇をやるつもりがなかったので、就職活動はしましたし、就職したら辞めるつもりでいました。でも、あまり深く考えないで就職活動をしたので採用されませんでしたね。

イ:「演技力でごまかす」ということはできなかったんですか(笑)。

齊:演技力以前の問題です(笑)。今思うと、当時の自分は、仕事をやることの意味とか、「こうしたいから、これをやるんだ」ということをまったく考えていませんでしたね。「めんどくせぇな」っていう思いが強かったんですよ。はっきりとした意識はないですけど、たぶん気持ちのどこかで「就職したくないな。芝居を続けていたいな。」って思っていたんでしょうね。

イ:でも、「あの時就職したたらどうなっていたんだろう」って考えることはありませんか。

齊:会社で働いている自分を想像することがあるんですけど、僕はやり始めると、他の人を寄せつけないくらい集中できるし、突進力もあると思うので、ものすごい会社人間になっていたでしょうね。やり始めたら休みも取らず死に物狂いで働く…過労死タイプかもしれません。

イ:「スイッチは入りづらいけど、いったん入ると暴走する」ということですか(笑)。

齊:そう、とことん行きます(笑)。

03

イ:卒業間近になると、同級生のほとんどが就職を決めてしまいますよね…。

齊:大学の同級生の多くは、大企業とか官僚などに就職していきました。

イ:そうなると、齊藤さんに対して、「お前、いい加減に目を覚ませよ」「現実を見ろよ」って言う人もいっぱいいたんじゃないですか。

齊:「お前いつまでやるの?」みたいなことはよく言われましたね。僕達のやっている演劇を観た友人からは、「何やってんの、お前?」と言われたこともありました…。

イ:理解されないわけですね…。

齊:それが結構辛くて、東京にいた時にたまに会うと、「オレは好きでやってるんだからいいんだよ、放っといてくれ!」って言い出しかねないぐらい時もありましたよ。

イ:「自分の立ち位置が定まらない」という迷いの時代ですか…。

齊:そうです。だから、ここ(鳥取)に来て居場所を見つけられたことがすごく嬉しかったですね。そういうのがずっと続いたから…。

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イ:ステレオタイプの価値観で言うと、一流企業に就職したり官僚になったりした人は、偉くて信用があると思われているじゃないですか。もちろん、社会的に評価されにくい人達がプライドを持って生きているということもあると思いますけど、そのあたりの葛藤というのはありませんでしたか。

齊:昔も今も常にありますよ。たぶん僕はそれを受入れられていないんですよ。だからすごく辛いんです。それはずっと抱え続けていて、これからも抱え続けると思いますね。

イ:アーティストの人はそういう葛藤が少なくて、どこか達観しているところがあると思っていましたけど、違うんですね…。でも、他のアーティストも抱えているけど表に出さないだけなのかな…。

齊:僕の周りの連中は抱えているように見えないんですよ。でもそれも不思議だなぁと思って(笑)。逆にみんなどこでそれを捨てたのか知りたいんだよなぁ…訊きたいんだけど…。

イ:抱えているものが見えない人には、「自由にやりたいことをやっている」と映っているはずですよ。

齊:よく「自由ですね!」って言われるんですけど、本人は「全然。だから何だよ! オレ別に自由だと思ってないし!」と思っているんですよ(笑)。

イ:自由に見える中での不自由さというのは、不自由に見える環境で生活している人たちにはわからないものなのかもしれませんね…。

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イ:東京で演劇をやっていた頃に、メジャーになりたいという気持ちはありましたか。

齊:もちろんありました。でも、その方法がわからなかったっていうか…たぶんもっとがっついてやれば良かったんでしょうけどね。

イ:自分を前面に押し出して「何が何でもやってやる!」っていう気持ちが足りなかったということですか。

齊:そこまでの気持ちは持てなかったですね。「何かちょっと恥ずかしい」っていう、ちょっと引っ込み思案な感じでした。たぶん、そこを突き破れた人は芽が出てくるんだと思うんですよ。僕も周りから機会が与えられたら動いたかもしれませんけど、自分から掴んでいくという強い気持ちにはなれませんでしたね。

イ:演劇を続けていくことに対する迷いもあったんじゃないですか。

齊:自分のいる立ち位置を変えるということ、動くことが面倒くさい、怖いというところもあったんでしょうね。僕は基本的に怠け者なんですよ(笑)。今はたまたま周りの環境が良い方向に変わってきて、自分でも「動いてもいいかな」って思えるようになってきつつありますけど…。

イ:怠け者でも、置かれた環境によって変われるんですね(笑)。

齊:それはあると思いますよ(笑)。会社でも、社員に責任のあることを任せてみたら、結果を出して本人も成長したということがあると思いますけど、それと同じです。

イ:鳥取に来て、どんどん根を張りつつある今の状況は、僕から見ても面白そうだと感じますよ。

齊:僕から見ても面白いです(笑)。

(取材/2013年10月9日)

鳥の劇場   ホームページURL:http://www.birdtheatre.org/

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