齊藤頼陽

今回登場する齊藤さんは
鳥の劇場という劇団の役者さんです。
彼は螺旋をぐるぐると回っている生き方をしていました。
「果たしてその階段はどこに通じているのか」
わからないままなんとなく進んでいくと
たどり着いたんですね、何幕目かの自分の舞台に。
俳優という仕事をやってる人に興味がある方はもちろん
「自分も何かもがいてる感じがするなぁ…」
と思っている方にぴったりの演目が始まります!

人物図鑑インデックス

齊藤頼陽_index
名前 齊藤 頼陽
職業 俳優
 
 

第4回 俳優としての立ち位置

イ:劇団の皆さんが鳥取に来られた経緯なんですけど、主宰者の中島さんは、突然「鳥取に住んで演劇をやる」とおっしゃったんですか。

齊:そうです。でも、僕は彼が「(東京での演劇活動を)辞めるんじゃないか」というのはなんとなく感じていました。

イ:予感があったんですか?

齊:中島は、鳥取に行く前に静岡県の利賀村というところの演出家コンクールで賞をとって、静岡に一年ぐらい行っていた時期があって、その時に方向性を模索していたと思うんですよ。だからなんとなくそれを感じ取っていました。

イ:その時、劇団員の方は何人くらいいたんですか。

齊:7、8人くらいです。

イ:その中で、鳥取に来られた方は何人くらいですか?

齊:ほとんど来ました。いなくなったのは二人だけですね。でも、僕はその時点で移住するつもりはなかったんですよ。多分他の連中もそうだったと思います。

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イ:「とりあえず行ってみようか」という感じですか。

齊:そうです。東京でこのままやり続けてもじり貧になっていくだけだと感じていたし、これからも演劇にかかわりたいという気持ちだけはあったから、とりあえず行ってみようかと…。

イ:「いいきっかけだから、展開をちょっと変えてみよう」ということですか。

齊:展開を変えてみるというか、当時はシステム開発に関わることをやって得た収入のほとんど芝居に使っていましたから、そんな生活をいつまで続けられるのか混沌としていた時に、中島が「鳥取でやる」っていうから、「とりあえずやってみるか」という感じでついて行きました。

イ:行き詰まっていたんですね。

齊:いや、行き詰まるというのは、どうにかなりたいと思うから行き詰まるじゃないですか。当時の僕は、どうにもならなさすぎて、それ以前に「こんなことをいつまで続けるんだろう」という感じだったんですよ。

イ:中島さんは劇団の人たちを誘ったわけですから、何らかの確信みたいなものがあったんじゃないですか。

齊:彼は、「何とかしてやる」「何かできる」というのはあったと思いますよ。「給料は何とかするから」とも言ってくれましたし(笑)。

イ:僕だったら、中島さんの突破力を信じたいけど半信半疑で、逃げる準備をしてソロソロとついていきますけど(笑)。

齊:僕も最初はそうでした…(笑)。でも、一緒についてきた僕の嫁さんは、僕と違って捨てられる人なんです。彼女は「好きな芝居やって死ぬんだったらそれでいい」くらいの考えを持っていますから、それに背中を押されたところもありますね。

イ:達観してる(笑)。

齊:今は子供がいるので、そこまで言わないでしょうけど。そんな人が横にいて、「行っていい」と言ってるから、「じゃあ行くか」と…。僕自身は全然達観してないんですよ(笑)。

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イ:鳥取に移住する決心がついたきっかけは何だったんですか?

齊:今までと何か違うという感覚がありました。鳥の劇場でやれることの方が全然大きいし、いろいろな展開ができるということがわかったんです。

イ:それは、鳥の劇場に「演じる以外の価値もある」ということですよね。

齊:そうです。現在の鳥の劇場は、単に作品作りというだけじゃなくて、「演劇を通じて地域社会にどうかかわるか」ということがすごく大きなウェイトを占めてきているんですよ。簡単にいうと、サッカーチームでありつつ競技場を運営しているみたいなところがあります。それに加えて、うちが演劇をしていない時にも、「劇場を中心に、地域を巻き込んで何かをやろう」ということも考えています。

イ:中島さんは、最初からそういう構想を持っていたんでしょうか。

齊:たぶん中島を含めて、みんな「自分達の稽古場が持てて、公演を打てる場所が作れる」くらいの気持ちだったと思いますよ。実際に来てみて、「これもできる、あれもできるんじゃないか」と可能性がどんどん広がっていくことを実感したんじゃないでしょうか。

イ:結果的にすごくいい環境だったということですね。

齊:それはもう全然いいですよ。幸せです。恵まれていると思いますね。

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イ:東京でやっていた頃は、どれぐらい厳しい環境だったんですか?

齊:よっぽど人気がある劇団以外は経営が苦しいですから、ほとんどの劇団では知り合いや身内にチケットを買ってもらうという状態でしょうね。それも思うようには売れませんから、身銭を切るわけです。

イ:劇団員の金銭的な負担が増えると、何のために芝居をやっているのかわからなくなりませんか。

齊:お金が出ていくばかりで、得られているわけじゃないから、職業として俳優をやっているということを堂々と言えませんよね。「趣味でやってるんだろ」って言われちゃうと「そうだね」ってなっちゃうんですよ。

イ:「どこからが役者と言えるのか」その線引はないですけど、役者で生活が成り立っているわけじゃないですからね…。

齊:今だって、そう言われると曖昧なところはあるんですけど、少なくとも自分の中では社会的なポジションがある感じがするから、「俳優をやっています」って言えますね。

イ:「自分の立ち位置ができた」ということですか。

齊:今は、社会全体があるとすると、「このあたりに自分がいる」という場所を打てるんですよ。「自分が職業として俳優をやっています」という位置をはっきりと打てます。でも、以前はそういう感じが持てなかったんですよ。

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イ:それは、自分たちが「身内の発表会をやっている」と思っていたからなんですか。

齊:その頃は、時々CMの仕事をもらったりしていましたけど、演劇でお金を得て生活しているわけじゃないから、職業を聞かれてると「SE(システムエンジニア)」って書いたりしていましたから。

イ:それと比較すると、鳥取に来てからの環境は相当変わったんじゃないですか。

齊:まず、お客さんの層がガラッと変わりましたね。身内や友人じゃなくなりましたから(笑)。近くで暮らしている人たちが来て、終わった後に役者と話して帰るみたいな感じになっています。普通に「お芝居をしてる人」として接してもらえるのが嬉しいですね。

イ:それは「俳優」ですよ(笑)。

齊:周りの方々が「ここに齊藤さんがいる」みたいに感じてくれていると感じることができるんです。「そうか、自分たちはここに居ていいんだ。こういうことをやってていいんだ」と思えたことは大きいです。

イ:それで、演劇を軸足にして「やれることはもっとあるんじゃないか」と可能性が広がってきたわけですね。

齊:今までは単純に自分達が発表することだけしか考えられなかったけれど、これからは社会の中に深くかかわっていって、「生活の中に演劇がある」ということを浸透させていけると感じたことはとても大きいです。

イ:やるべき方向については、だんだん見えつつあるという感じですね。

齊:そうですね。

(取材/2013年10月9日)

鳥の劇場   ホームページURL:http://www.birdtheatre.org/

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